『夢幻諸島から』クリストファー・プリースト

  • 夢幻諸島から
  • 訳: 古沢嘉通
  • 著: クリストファー・プリースト
  • 販売元/出版社: 早川書房
  • 発売日: 2013/8/9

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地球ではない別の惑星、その惑星には題名通り数千から数万の島々が点在している。
ただ、数千から数万とやけに数の幅が広いことから少しうかがえるように、この惑星では少し、というかかなり不思議な現象が発生している。というのも場所によっては時間の流れが歪んで異なっていたり、空間的にも歪みがあり、正確な地図を作ることができないという設定だ。といってもこの設定が何か重要な意味を持っているのかといえば、今の時点ではおそらく、物語自身が信頼出来ない要素をはらんでいるという状態を意味しているだけだろう。
と、今更こんなことを書いてもしかたがないので、あらすじ的なものは省くことにするけれども、そもそも、この本自体が、この惑星の島々のガイドブックのような体裁をとっており、相互に独立した内容で順番通りに読んでも適当に好きな話から読んでも問題ない構成になっている。といってもやはり順番に読んでいったほうが良いとは思うけれど。
ガイドブック的な体裁なので、島の説明に終始している話が多いのだが、時々それ以外の話が登場する。それらの話はその話の中では一応の完結をしているけれども、時として他の島の話の中でも言及されて、同様に、いろいろな島の話の中に時々登場する人物もいたりと、読み進めていくうちに「夢幻諸島」という世界が少しずつ多層的に浮かび上がってくる。それはあたかも読書をしているというよりも、「夢幻諸島」という世界を旅しているかのようでもあり、昔、同じような気分になったことがあるなあと昔の記憶が蘇ってきた。
それは、『SOUL&SWORD』というスーパファミコンのゲームで、このゲームを遊んだ時に感じた気分と同じだった。『SOUL&SWORD』はロールプレイングゲームなのだが、明確な物語というのがなく、とある大陸をゲーム内の時間において10年という期間、冒険するだけというもので、大小さまざまなイベントは用意されているけれども、全てのイベントをクリアする必用もなく、満足した時点で船着き場から船に乗って出発すればエンディングを迎えるというゲームだ。なのでさらにいえば、ゲームを始めて10分ぐらいでエンディングを迎えることも可能という変なゲームだった。このゲームにおけるイベントも基本的には独立した内容でであり、冒険をしていくうちに大きな物語りが浮かび上がってくるわけでもない。しかし、時々、発生するイベント間で関連性を持った内容があったりして、冒険してさまざまなイベントをクリアしていくにつれ物語ではなく、この世界というものが多層的に浮かび上がってくるゲームだったのだ。
まさかプリーストがこのゲームをやっていたというわけではないのだろうが、このゲームよりもさらに複雑に入り組んで、それでいて明確な答えに行き着くことを拒んでいるかのようなこの本は、久しぶりに僕好みの物語だった。

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