文庫本で上下巻の分厚さなんだけれども、一読、巻を措く能わずという面白さ。
潜伏期間が異様に長い新種のエボラ出血熱が発生し、それによるパンデミックを防ぐために、感染した数十名のピグミー族を殲滅させるという話から始まるこの物語はその時点で題名通りジェノサイドの物語となるのだが、その一方で同時進行する日本人青年の話がもう一方の物語に少しずつ関わりあいも持ち始めてくるあたりから事の真相が徐々に明らかになり、という展開は、個々のアイデアや人物造形と言った点において新味はないのだけれども、その組み合わせ方と語りのうまさが絶妙で、読む手を休ませてくれない。新種のウィルスの話だと思っていたら、実は違って……という部分は読んでいてワクワクするし、その設定はどことなく小松左京の小説を彷彿させるけれども、手触りは田中光二の冒険SFに近い感じで、久々に読む冒険SFとしての面白さを堪能させてくれる。
たしかにこれはベストセラーになるよなあと思うし、タイムリミットサスペンスとしてもそうだが、脱出劇としての冒険ミステリとしても、更には謀略小説としても楽しめて、こんな面白い物語を読まされると、次の作品に期待してしまうじゃないか。
そういえば田中光二は今どうしているのだろうか。ちょっと心配だ。
『ジェノサイド』高野和明

コメント