フィクションをノンフィクションっぽい体裁で描くというのはそれほど珍しくはないけれど、じゃあ過去にどんな作品があったのかといわれると、久坂部羊の『廃用身』しか思い浮かばない。
この本もその一つだけれど、文庫化にあたって第三者による解説がついたお陰で、ノンフィクションっぽさが少し減少してしまっている。もっとも、それは文庫化におけるおまけであり、本来のノンフィクションっぽさの方は単行本を買った人たちの特権と思えばそれはそれで仕方がないともいえる。しかし、文庫本の方でも、解説が最後に追加されているだけで、その手前には架空の本の広告が省略されずに掲載されているので雰囲気は味わうことはできる。といいながらも、所詮はこの本がノンフィクションの体裁をとったフィクションであることはわかっていることなので、ノンフィクションっぽさがどこまで再現されているかということにこだわっても意味は無い。
この物語におけるミステリの焦点は、副題にある、首の切断の謎であり、作中においてもミステリにおける首の切断の様々なパターンの解説が登場人物の一人によって行われていたりするあたりはうれしい展開でもある。
とにかく意欲的な作品であることには違いなく、この物語における犯人が、殺人という行為に対して特別の感情を持ってはおらず、かといって快楽殺人者でもなく、単に、問題解決の方法の一つとして、話し合いとか、脅しとか、お金とか、そういった方法と同一レベルで殺人という方法が位置づいている人間であるという設定が面白い。そして物語の大半は彼の視点で描かれているのだ。
もちろん、彼の異質な思考形態までは描かれてはいないのだが、それ故に、描かれている部分と、描かれなかった部分、結果として大量殺人者だったという部分が読み手の中で一つになろうとするときに、不思議な感覚が生まれてくるのだ。また、一方で彼が書店員だったという点も、本が好きな人間であればあるほど、殺人犯であるはずの彼に対して、思わず感情移入してしまいがちになってしまうというのも後々ボデイブローのように効いてくる。
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