『小説あります』 門井慶喜

  • 小説あります
  • 著: 門井 慶喜
  • 販売元/出版社: 光文社
  • 発売日: 

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題名からなんとなく想像できるのだが『おさがしの本は』の姉妹編だった。姉妹編という言葉が正しいのかちょっと疑問でもあるけれども、『おさがしの本は』の同じ市を舞台に時系列的にはそれよりも少し後の話で、そして今回は本ではなく物語そのものがテーマとなっている。
『おさがしの本は』の終盤における作者が導き出した答えはミステリにおける意外な謎解きの真相と同レベルの驚きを与えてくれたのだが、今回の謎は少し抽象的で、「物語を読む理由」についてだ。
つまり人はなぜ小説を読むのかということに対する答えを出そうとするのだ。そしてそれと同時に一人の架空の作家の物語が同時進行で進んでいく。
架空の作家の物語はこれはこれで面白く、というのも物語の中で実在の人物が登場し、この作家に対する批評をしていたりするのだ。この架空の作家が本当に実在してこういう小説を書いていたとしたらこんな批評がされたのかもしれない……のかどうかまでは判断できないけれども、読んでいて不思議な感覚を与えてくれる。
その一方で、小説を読む理由に関しては一つの答えだけではなく最終的な結論に至るまでにさまざまな答えが提出され、一つ一つが論破されていくという形式でその結果、最後に残った結論が納得できるのかというと、まあそういう結論もあるかもしれないなあという気持ちだったというところがこの問題の難しさなのだろう。というのも僕自身がなぜ小説を読むのかといえば明確な一つの答えなどなく、さらにいえば読みたい本によってその答えが変わったりもするからだ。
そういう意味においてはあえて、この難しい問題によくぞ挑戦したものだと作者を讃えたい。

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