『怪しいシンドバッド』高野秀行

  • 怪しいシンドバッド
  • 著: 高野 秀行
  • 販売元/出版社: 集英社
  • 発売日: 2004/11

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高野秀行の本に興味を持ったくせに高野秀行の本来の仕事である辺境・探検物にはまだ手を出していない。
なにしろ、前回は『異国トーキョー漂流記』で、次の手をとったこの本はそれまでの本の番外編もしくはサイドストーリー的なエピソードを集めたものだった。
あとがきで本人が文章が若いと謙遜しているけれどもそんなことは気にならないくらいに面白い。
そもそも文章そのものが面白い上に著者の行動自体もむちゃくちゃで、幻の幻覚剤を試してみるためにコロンビアへ行ってコカインまみれになって新年を迎える羽目になったり、中国では人肉を食べることがあるということで人肉食に興味を持ち、その人肉の正体である人間の胎盤を食べてみたり、しかも余った胎盤を日本に持って帰って友人たちに食べさせたりと、なんでも興味を持つのはいいけれども興味の方向が自分とはまるっきり異なるので読んでいて楽しい。
インドで騙されて無一文になったエピソードも面白く、無一文になったことで暗雲立ちこもる様相になるかと思いきや、何もないことの清々しさをある意味堪能するのだ。もちろん実際にはここまであっけらんかんとしていたわけではないだろうけれども、無一文の状態であっても作者本来のコミュニケーション能力の高さ故にか、僅かな知り合いの人づてと情けを助けにその苦境を乗り越えるのだ。高野秀行の普段の行動は見習いたくはないけれども、この徒手空拳での力強さというのは見習いたいと思う。
それは何も持たなくても生きていくことのできる力なのだ。

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