新たに電子書籍化された本の一覧を眺めていたら須藤真澄の漫画がその中にあって、しかもその電子書籍化された本の題名に見覚えがないことに気がついた。
そういえばここ数年、須藤真澄の本を買っていない。<庭先案内>シリーズが完結してその後に出たやつも買った記憶はあるのだけれども、それ以降、書店で見かけた記憶があるのは過去の作品の再編集ぐらいだ。
あわててネットと自分の過去の記録を調べてみると、やっぱりここ数年、新刊が出ているのに読んでいない。
多分、見落としていたというよりも、なんとなく須藤真澄の物語と距離を置くようになってしまったんじゃないかと思う。
で、とりあえず未読だった『金魚草の池』を買って読んでみた。
絵といい、内容といい、抜群の安定度で『電氣ブラン』や『観光王国』『子午線を歩く人』といった初期の作品の雰囲気もそのまま受け継いでいる。デビューの頃からの作風を何一つ失わないで、新たな作風や世界観を増やしていっているかのようにも思えるのだが、登場人物に対しての描き方は変化した。初期作品では登場人物と半ば同化しているかのようなダイレクトな感情の描写があったけれども、今はそれはない。作風が広がったせいでもあるだろうし、登場人物の寂しさや悲しさをダイレクトに描くのではなくやさしく包み込むように描くようになったためだろうでもあろう。
初期の作品のあのヒリヒリとした切ない感情が見える漫画が懐かしいのだが、あれはあの年代だから描くことが出来た世界であり、同時に僕自身もまだ若かったから受け止めることが出来た物語だったわけでと、そんなことを思いながら須藤真澄の漫画から距離を置くようになった理由がなんとなくわかり、少しさびしくなった。どの作品も依然として面白かったんだけどね。
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