『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』 木下古栗

  • 金を払うから素手で殴らせてくれないか?
  • 著: 木下 古栗
  • 販売元/出版社: 講談社
  • 発売日: 2014/3/27

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「ちょっとあなた、よく見ると男じゃないの!」
いきなり何のことなのかわからないだろうけれども、この一文は作中で現れる言葉だ。
これだけ見るとそれほどインパクトはないけれども、物語を読んでいていきなりこの言葉が出た時にはそれはもうびっくりした。
まさかこんな話にこんなミステリじみたトリックを仕込んであるとは思いもよらなかったからで、それまで読んでいた物語が本当に自分が理解したとおりの物語だったのか不安になってしまったくらいだ。しかもそんなことでさえこの物語の中ではささいなことがらで、題名にひそんでいた真の答は物語の最後になって初めて明らかにされ、しかもそれがそれまでのふざけた内容とは正反対とまではいかないけれども想像もしない事柄同士の組み合わせで唖然とさせられる。
「首チョンパして死にたくなるくらいお先真っ暗のこの国で、煙草やアルコールよりも遥かに害の少ないこんなわずかな救いさえ禁止するなんて本当に馬鹿げてる。」
これもそうだ。
そしてここで問題にされているのは大麻で、登場人物たちは大麻を吸って現実から逃避しようとするのだが、彼らが住んでいる国というのはほかでもない現在の日本だ。今の社会をちょっと悲観的に眺めてみると、こんな気持になって不思議ではない。
いきなりこんなセリフを登場人物に言われると、なんだかこの物語には社会問題に対する深い洞察と問題提起の物語ではないかとすら思ってしまうが読んでいる時間の大半はそんな風になど思わなく、愉快で笑える物語なのだ。
表題作でもある「金を払うから素手で殴らせてくれないか?」は、失踪した男を失踪した本人が探すという、話の前提からして根本的に間違いっているとしか思えないふざけた話なのだが、探している本人も、さらに彼を手伝っている同僚達もそのことに何の疑問も抱かず、失踪した本人と一緒になって失踪した本人を探すのだ。そしてこんな変な物語にいったいどういう結末がつくのかといえば、これがわりと綺麗につくのが恐ろしい点で、作者にいいように丸め込まれてしまったといえばそうなのだけれども、これだったら丸め込まれても構わないよなあと思ってしまったりもする。

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