前々から気になっていた本が文庫化された。
主人公が写本師という設定は本好きにとっては気になる設定でありなおかつ、この世界には魔法が存在して、もちろんこの物語がファンタジーなので魔法が存在していても何の不思議でもないのだが、この世界の魔法はいくつかの体系に分かれた魔法で、それだけでも十分なのにその魔法とは異なる存在の魔法体系があり、それが本を媒介とする魔法、どちらかといえば呪術で、そしてその呪術を使うことができる人々が夜の写本師と呼ばれる人たちなのである。といっても通常の魔法に関してはどういった理由で発現するのかといった細かい説明はないし、本を媒介とする呪術に関してもそれほど細かな説明があるわけでもない。
物語の主眼は最強の魔導師に育ての親を殺された主人公の復讐の物語であり、同時に主人公の成長の物語でもあるのだが実際に読んでみると、復讐の物語という言葉から想像するような凄惨な話でもなく、どことなく寓話めいた感じのする緩やかなテンポで物語は進む、重厚な物語だ。そして主人公は男で、敵役のである魔導師も男なのだが、物語のキーとなるのは女性で、女性という要素をさりげない形で物語にうまく溶けこました物語でもある。
東京創元社の電子書籍は作者や翻訳者以外の人が書いた解説でも収録されている場合が多く、この本もそうだったのでよかった。
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