『図書室の魔法』 ジョー・ウォルトン

  • 図書室の魔法 上
  • 訳: 茂木 健
  • 著: ジョー・ウォルトン
  • 販売元/出版社: 東京創元社
  • 発売日: 2014/4/28

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  • 図書室の魔法 下
  • 訳: 茂木 健
  • 著: ジョー・ウォルトン
  • 販売元/出版社: 東京創元社
  • 発売日: 2014/4/28

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これはちょっと卑怯な話だなあと思ってしまうのは、やはり、こんなにもたくさんのSFやファンタジーの小説に関して作中で言及されているのと、主人公が不幸な境遇の中で本を読むということに救いを見出し、そして救われていく物語だからで、こんな話を読まされてこの本を貶す事のできるSFファンはそんなにいないんじゃないかと思う。
主人公が読んだ本に関する言及の部分を無くしてしまえばこの三分の一くらいのページ数ぐらいに圧縮されるだろうし、その部分に関してもそれほど目新しいアイデアや視点があるわけでもなく、そんなに目新しい物語でもなく、さらにいえばSFでもない。しかし、驚くほど大量のSFとファンタジー小説に関する話題をつぎ込んで出来上がった物語は読んでいる最中、そして読み終えた後でもなんとも形容しがたい気持ちにさせられるのだ。それはやはり本を読むということが好きな人間であればあるほど主人公に共感を覚えるに違いない。
エース・ダブルで『エンパイア・スター』と抱合せになっていた作品を作中の人物に「そっちはクズだ」と言わせたり、ステファン・ドナルドソンの『破滅の種子』を『指輪物語』と比べるのはおこがましいにも程があると言って読みもせずに貶したりと、意外と辛辣な部分もあって、この作品の中で登場人物に言わせている小説に対する意見というのは作者であるジョー・ウォルトン自身の意見でもある可能性が高いということを思うと、よくここまで書くことができたなあと思ったりもする。僕は『破滅の種子』が好きなのでこの時点で主人公がちょっと嫌いになったけど。
しかし、主人公は物語の世界に救いを求めているわけだから、ファンタジーの世界における救いを徹底的に否定しようとするステファン・ドナルドソンの『破滅の種子』は、主人公が受け入れがたい物語なので、この本を否定してもおかしくはない。
それにしてもC・J・チェリイの『GATE OF IVREL』はどんな話なのか気になるので翻訳されないものかな。

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