サンリオSF文庫に関しては以前にも何度かこのブログで書いたことがあるし、今でもたまに未読だったものを古書で探して読んでいるので、すでにレーベルとしては存在していないにも関わらず僕としては今でもある意味、現在進行形で存在しているレーベルだ。
そういう個人的な状況はさておいて、サンリオSF文庫は過去にも二度ばかり雑誌で特集が組まれたりして世間一般的にも未だに根強い人気を保っているのは知っていたが、まさか商業出版としてこんな本が作られるとは思わなかった。
ミステリ方面でいえば過去には同人誌としてだけれど『クラシック・ミステリのススメ(上巻)』というのがあって、国書刊行会の《世界探偵小説全集》をはじめとして新樹社の《新樹社ミステリ》原書房の《ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ》といったレーベルで出版されたクラシック・ミステリ全ての作品を解説した本があった。僕は今でも下巻が出るのを楽しみに待っているけれどいまだに出る気配がないのが悲しい。しかし、おそらく下巻に収録されるであろう論創社のミステリが今でも現役で精力的に出版されているので、なかなか難しいかもしれない。
それはさておき、こういう本が作られるのであれば、2012年に破産して消滅してしまった武田ランダムハウス・ジャパンのRHブックス・プラス総解説とか、久保書店のQ-Tブックス・SFノベルス総解説なんていうものが将来的に書かれる可能性もゼロではあるまい。もっともQ-TブックスとSFノベルスの場合は版元の在庫がまだ残っているようで現役のレーベルといえばレーベルだから消滅してしまったレーベルという条件には当てはまらないし、こんな本が出るのをちょっと楽しみにしているのは僕ぐらいだろう。
さてこの本、表紙は賛否両論があるようだけれども、もともとのサンリオSFの表紙だって、これはいかがなものかと思うような表紙があったりしたので、個人的には平気なんだけれども裏表紙を見て思わずニンマリとしてしまった。
ここまでするのであればもっと似せてくれればいいのにとも思ったが、まああまりやり過ぎるとくどくなりすぎるからこれはあくまでくすぐり程度のこれくらいがちょうどいいのだろう。
表紙の絵は小さいながらも全てカラーで掲載されていて、だったら裏表紙のあらすじも全て掲載してくれたらよかったのにと思うのだが、著作権的な問題もあるだろうから仕方ないかもしれない。あとがきが好きな人間にとっては裏表紙の400字もの分量のあらすじはちょっと得した感じがあって好きだったんだけれども。
しかし、裏表紙のお得感はあったものの、サンリオSFは当時としてはハヤカワ文庫SFや創元推理文庫と比べて割高な面もあって、サンリオSFの創刊当時、中学生だった僕にとっては買うのにちょっと躊躇してしまう値段でもあった。そもそも当時はSFを読み始めたばかりで新刊だけでなく既刊まだ読んでいない本が沢山あって、既刊の安い本とサンリオの高い本とどちらを選ぶかといわれれば、既刊の安い本の方を選ぶことのほうが多かったのだ。
で、実際にどのくらい高かったのだろうかということで、すぐに取り出して調べることの出来る本の中から、1985年で比較してみると、
ハヤカワ文庫SFとして出たジャック・ヴァンスの『復讐の序章』が定価380円でページ数が288ページ、1ページあたりの単価は1.32円。
同じくロバート・シルヴァーバーグの『ヴァレンタイン卿の城(上)』が定価480円で384ページ、1ページあたりの単価は1.25円であるのに比べて、
トム・リーミィの『サンディエゴ・ライトフット・スー』は定価740円で528ページ。1ページあたりの単価は1.4円で、単純に比較するのもあまり正しくはない気もするが、それでもやはり高い。
1980年の本で比較してみても、
ジャック・ヴァンスの『大いなる惑星』が360円で304ページ、1ページあたりの単価は1.18円であるのに対して、
アルフレッド・ベスターの『コンピュータ・コネクション』は460円で368ページ、1ページあたりの単価1.25円なので、やはり高かった。
それに今と違って新刊の書店での生存率というか書店に置かれている期間が長かったので、出てすぐに買わなくっても売れなければ半年くらいは書店の棚に置かれていたので、ゆっくりと買うことができたのだ。
とくに地方の書店だとそもそもサンリオSFを好んで買おうとする人間の絶対数が少なかったので、その気になればいつでも買えるという感覚だった。
しかし、世の中そんな都合よくいくわけもなく、突如としてサンリオは出版事業から手を引いて、それどころか在庫も回収して全て無かった状態にしてしまった。
当時はインターネットなどなかったし、パソコン通信もやっていなかったし、SFファンとしての活動もしていなかったので、サンリオSFが無くなってしまったということも気が付かなかったし、記憶に間違いがなければしばらくは書店に在庫が置かれていたような記憶もある。特に個人経営の小さな書店の場合はそうだったと思う。
もっともそういった書店に残っているのは『バトルフィールド・アース』とか『V』といった本だったので残っていても回収されていてもどっちでも構わなかった本だったんだけれどもね。
そんなわけで、いつのまにか新刊が出なくなって、書店の棚から消えていったサンリオSFなんだけれども、地方に住んでいると、毎月の新刊でさえ全て入荷されることすらないことも多く、サンリオSFとしてどのくらいの本が出ていたのかという全体的な情報も知る由もなかったので、書店から消え去ってもそれほど残念な気持ちにはならなかったのだが、それから数年経って、サンリオSFの全体像が見えてくと、あの当時もっとこまめに買っておけばよかったと後悔することとなる。
それを思うと、世の中、知らないほうが良いことというのはたまにあるのだなと思うのだ。
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