3月9日に淡路島で起きた事件のことを考えると、どうにもやるせない気持ちになってしまう。
犯人がフェイスブックやツィッターに書き込んでいた内容を見ると、電磁波攻撃、脳内通信、集団ストーカーと、統合失調症であることを疑ったほうがいい言葉に満ち溢れている。
僕の妻の場合もそうだったし、そして今でもそういった妄想から抜け切れていない。
ただ、妻の場合はここまで妄想の内容が複雑ではなかったし、それを外に向けることはなかったことは不幸中の幸いだったと思う。
今回の事件を警察が未然に防ぐことが出来なかったことを非難してもこれは仕方がない。
犯人と家族の年齢から考えると、家族が力ずくで抑えるということも難しかっただろう。
そして、こういった人間はずっと入院させておけばいいという意見が出るのも無理は無いとも思うのだが、しかし、精神科の入院には三ヶ月という基準がある。
入院して三ヶ月経った時、退院させて通院治療が可能な状態であると判断されればそこで退院させられることになる。
統合失調症という病気は当事者に病識のないことの多い。そのため、当事者を通院させるのはとても大変で、さらに入院させるとなるとなるとそれは飛躍的に難しくなる。場合によっては気力も体力も使い果たしてしまう。
そういった状況で、三ヶ月後にさらに別の病院を探してもう一度入院させるというのは多分無理だ。
そもそも、当人だって退院できたことを喜んでいるだろうし、家族だって通院治療に切り替えることができる状態にまで辿り着いたことを喜んでいるに違いないのにだ。
ただ、犯人の書き込んだ内容を見ていると、当人は相当に辛かったんだろうなと思ってしまう。
犯人の書いた内容をみて、みなさんはどう思われるのだろうか。
多分、理解できない恐ろしさを感じるだろう。
しかし、その理解できない恐ろしさは当の本人にとっては現実の出来事なのだ。
妻が同じような状態で、そして苦しんでいる様子をすぐ側で見ていた、いや、見ているしか出来なかったからこそ、ありえない妄想を現実のものだと受け止めている人たちがどれほど苦しんでいるのかを少しは理解することができる。
だから今回の事件は理解できない事柄ではなく、理解できる事件だった。
いいかえれば、いじめられっ子がいじめた側に復讐をした。
そんな事柄だったのだ。もちろん、当人にとってはだが。
だから、この事件はとても悲しく、やるせない気持ちにさせられる。
もう一つやるせない気持ちにさせられたのは、犯人が内海聡医師の本を読んでいたことだった。
内海聡医師は今では手を広げてて様々な分野で批判活動を行っているが、もともとは精神科の誤診等における薬害被害のボランティアで救済を行っていた医師だ。
初期の活動の場は、同じ思いで活動を行っていた笠陽一郎医師がボランティアで関わっていた「精神科セカンドオピニオン掲示板」というサイトだったのだが、途中で意見の食い違いにより笠陽一郎医師と決別し、個人で活動して今に至っている。
精神科セカンドオピニオン掲示板で活動していた初期の頃はまだ良かったのだが、独立してからはちょっと首を傾げたくなるような過激な言動が多くなってきた。たしかに、精神科の多剤投与の問題や誤診、といってもそれは精神科における診断の難しさをそのまま意味することでもあるけれども、そういった面に関しては、過去にもあったし、今でもそういったことが起こっているということは否定出来ない。しかし、正しい治療を受けて良くなっている人もいるわけで、彼のいうことが100%正しいとはいえないし、それ以外の言動を見てもむしろ間違っている事柄の方が多い人なので、そういう人の書いた本を、一番読んでもらいたくない人が読んでいたということが、やるせない気持ちにさせられる。
今回の犯人が今後どのようなことになるのかはわからない。
当人にとっては心神喪失状態ではなかっただろうけれども、十中八九、心神喪失状態という判断がくだされ、無罪となるだろう。仮に有罪になったとしても今の犯人の状態では罪を償うということは不可能だろうから、たとえそれが無期懲役であってもほとんど無意味だ。そういう点では死刑という形になるというのは、語弊があるだろうけれども、理想的かもしれない。しかし今の日本の法律ではそれは無理だし、だから、今回の出来事は遺族にとっても報われることのない悲しい事件だ。
もちろん、無罪となったとしても保釈されるわけではなく犯人は病院に入院させられることとなるだろう。
そこで、適切な治療を受けさせてもらえるのか、それとも、薬でおとなしくさせられるだけにとどまるのかどうなのかはわからない。そして適切な治療を受けても良くなるという保証もない。
前にも書いたことがあるけれども、僕の伯母は若いころに心の病にかかり、精神病院に入院しそして残りの長い人生をその中で暮らし、外にでることもなく一生を終えた。
適切な治療を受けたのか、それとも受けさせてもらえなかったのかどうかはわからない。ひょっとしたら誤診があったのかもしれないし、そうではなかったのかもしれない。
治療を受けても改善されない場合、当事者もそして家族も、疑心暗鬼にとらわれる。
別の医師に観てもらえれば今よりも良くなるかもしれない。しかし、入院した状態ではそれは無理なことだ。精神科での入院というのはそういったジレンマとの戦いもある。
刑法第39条によって無罪となったとしても犯人は救われたわけではない。
笠陽一郎医師と内海聡医師が行ったことはそういった部分の救済で、内海聡医師の今の活動はまったく賛成できないのだが、それでも彼が活動を始めたきっかけとなる薬害の救済という部分までは否定しない。
それだからこそ、どこで道を誤ってしまったのだろうかと思うたびにやるせない気持ちにさせられる。
コメント
僕は内海聡医師を肯定するつもりはありませんが・・薬物療法に関しては懐疑的です・・
自分の経験や 患者さんを見ていると 本当に効果があるのか?と疑問に思ってしまいます・・
しかしお薬がないと 日常に支障をきたしてしまう人たちが居るのも事実です・・
薬物療法が正しいのか どうかは別として・・・・
カウンセリングや問診の質が問題なのは確かだと思います・・・
僕は断薬した身ですが 寛解には至りませんでした・・・
しかし お薬で精神の根本的な問題は解決はできないと思います・・・
当事者の考え方が 病状を大きく変えていくと思います・・・
むずかしい記事にコメントしてくださってありがとうございます。
こうして文章にしてみても、まだまだ書き足りないことが多すぎて、ちょっとまとまりのない内容になってしまいました。
こういう事件が起こるたびに心を傷めます。
断薬の件に関して 最近気になることがあったので追記させていただきます・・・・・最近 知り合った人の話になるのですが・・・
お薬を飲むことを拒否して 家族や身の回りの人に暴力を振るう事件がありました・
僕の中で どうしても淡路島の事件とかぶってしまい・・・
本当に 断薬することが正しいのか・・・わからなくなってきました・・
本人はちなみに 統合失調症を患っています・・・
僕自身 本当に断薬して良かったのか・・・考える時もあります
人それぞれ、症状が異なりますから断薬が正しいか正しくないかは一概に言えないと思います。なので断薬というのは善悪で考えるものではないんじゃないでしょうか。
あと、薬を飲まなかったから暴力を振るうようになったと単純に考えてしまうのも間違っていると思います。
統合失調症の場合、当人が病識のあることが少ないので、当人からすれば病気でもないのに飲めば気分の悪くなる薬を飲まされる状況は暴力を振るっても阻止したくなるでしょう。
かといって、妄想がひどくなってしまうと、薬に頼らざるをえません。
飲むのを拒否して暴力を振るってしまったのであれば、まだ救いはあると思います。
妻はあれから薬を飲み続けてくれていますが、飲まないと眠れないからという理由で飲んでいます。本当はそういう理由で飲んでほしくはないのですが、一度思い込んでしまったものを訂正させるのは難しいです。
妄想が酷くて・・それでお薬を飲んでくれればいいのですが・・なかなか・・うまくいかないみたいです・・・
それで 当人・・・もとよりご家族は精神・・・肉体的にもう衰弱していってる状態です・・・
僕は医者じゃないので・・・アドバイスするしかないです・・・・
彼女の周りの家族は もう限界らしく・・・
強制的に入院させることも考えてるみたいです・・
僕は 彼女のことを考えると 入院させるのは 反対ですが・・・
今のところ それしか選択肢はないみたいです・・・
そうですか。
ご家族と一緒に生活をされていて、食事はご家族が作ってくださっているのであれば、当人の食べる食事に薬をまぜるという方法があります。
もちろん主治医の先生と相談した上で行ってもらいたいのですが、この方法で急場をしのいだ人の話を聞いたことが有ります。
でも、ご家族のほうも精神的に限界が来ているとなると難しいかもしれません。ただ、上記の方法で今よりも良くなる可能性があるという希望をもってくれることができたら、少しは先に進むかもしれません。
あとは、近くに家族会のようなものがあれば、ご家族の方にそこに相談もしくは悩みを聞いてもらうということができるかと思います。そのあたりは行政の方に問い合わせてもらえれば調べてもらえるはずです。
悩みでも愚痴でも聞いてもらえれば少しは楽になるはずです。