去年、死ぬまでに読みたい100冊という記事を書いてから半年ほど経った。
で、それから今日現在までのあいだに何冊くらい読んだのかといえば、
- 『タイタス・グローン』マ-ヴィン・ピ-ク
- 『死にゆく者への祈り』ジャック・ヒギンズ
- 『渚にて』ネビル・シュート
- 『エスパイ』小松左京
- 『銀河大戦』エドモンド・ハミルトン
- 『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア
の六冊だった。
平均すれば一ヶ月に一冊のペースなので、このペースを維持できたとすれば百冊全部を読み終えるのに最短でも八年ほどかかる計算になる。
死ぬまでに読みたい本ということで選んでみて、そして読み終えてどうだったのかについてちょっと書いてみよう。
『タイタス・グローン』は面白かったかといえば、あまりおもしろくなかったというのが正直な感想で、どうも僕の好みの作品ではなかったといったほうがいい。雰囲気はいいけれども、とにかく展開が遅いのだ。物語はタイトルになっているタイタス・グローンという子供が生まれるところから始まるので、彼がこの物語の主人公となるのかとおもいきや、670ページ近く費やしても彼は二歳にしかなっていない。ものごころがつく以前に、言葉さえ満足に話すことはできない年齢だ。彼自身に焦点が当たることさえ殆ど無い。いわゆる読書体力を必用とする物語で、二作目を読むのを躊躇してしまうほどの重厚な物語でもある。
ジャック・ヒギンズの『死にゆく者への祈り』は冒険小説フェアで新装版として復刊されていたので、手に入れるのが簡単だった。というか書店で見つけた時に、この本を百冊の中の一冊に選んでいたことを失念していた。
一読して、河出文庫で復刊したジャン=パトリック・マンシェットの『眠りなき狙撃者』と似たような感じだなと思った。とはいえど、双方を比べると、物語の味わいや雰囲気はまるっきり違う。ヒギンズのほうは感傷的で湿った雰囲気であるけれども、マンシェットの方は乾いていて無慈悲だ。どちらも主人公は不幸な目に合うけれども、ヒギンズの方は救いがあるのに、マンシェットは救いを与えようとはしない。もっとも、マンシェットなりの救いを主人公に与えているのかもしれないけれど。
この勢いに乗じてヒギンズの未読の本を何冊か読んでみたくなったのだが、『死にゆく者への祈り』レベルの作品で未読なものが思いつかない。
意外だったのはネビル・シュートの『渚にて』を読んでしまったことだ。先の記事でも書いたとおり、一番最後まで読まずに残っている作品だと思っていた。
読んだのは電子書籍版の方で、東京創元社の電子書籍は解説が付いていることが多いのだが、『渚にて』に限っては訳者解説は付いているけれども鏡明の解説は付いていない。訳者解説の中で鏡明の解説について言及されていたので紙の書籍には鏡明の解説も付いていることに気がついたのだが、言及されていなかったらまったく気が付かなかっただろう。
『渚にて』の場合、どういう結末を迎えるのかという部分についてはすでに知っているので、半ば消化試合的に読み進めていく感じでもあったが、途中からそんなふうに思わないで読み進めていくことができたのはやはり名作と言われるだけの作品だからだろう。
派手な出来事は全く起こらないし、登場する人物は主要人物から脇役、さらには、ほんのわずかしか登場しない人物も含めて、今ある状況を受け入れて最後の時がくるまで今までと同じ生活をしようとし続ける。ある意味非常に理想的な終末の迎え方であり、羨ましささえ感じられる生き方だ。
そんな描かれ方がされているせいもあってか死体というものが描かれない。人々は少しずつ、ゆっくりと世界から消えてゆくだけだ。唯一の例外は、登場人物の一人が熱中している自動車レースで、このレースの中だけは事故で沢山の人々が死ぬ。そんなあたりがちょっとおもしろかった。
最初から人類は滅びていくことが決まりきっている展開かとおもいきや、ひょっとしたら助かるかもしれないという期待感も残っていて、結末を知らずに読んでいたらもう少し楽しむことが出来たかもしれない。
それに比べて、やっぱり読まなくってもよかったかと思ってしまったのは『エスパイ』と『銀河大戦』の二冊。
『エスパイ』はスパイ物であり、書かれた時代が時代だけにいくらジャンル的にはSFだといっても、物語における根本的な世界情勢の設定に古臭さを感じてしまう。こればかりはしかたがないこととはいえ、許容できるかというと個人的にはちょっと無理があった。とはいえども、エンターテインメントとして書かれているので設定の古臭さを我慢さえすれば、それなりに楽しめる。スパイ小説としての部分よりSF小説としての部分が意外と小松左京らしさが現れていて、意外な黒幕の正体とその動機の部分は面白い。古びてしまっている部分を現代風にアップデートすれば今でも通用するかもしれない。
それに比べるとハミルトンの『銀河大戦』は格段に落ちる。もっともこれも、書かれた時代を考えればハミルトンって凄いよなあと思うのだけれども、主人公も敵も、登場人物全てに魅力がなく、シナリオを読んでいるような感じなのだ。ただ、銀河系に他星系の異星人が侵略してくるという設定はありふれたものだけれども、この異星人、銀河系を攻める前にアンドロメダ星雲に攻め入ろうとしたのだが、アンドロメダ人の強力な武器の前に撤退をよぎなくされ、銀河系に変更したという展開は少し面白く、敵の敵は味方だということで主人公たちがアンドロメダ人に協力を依頼しに行くというのは少しだけ面白い。しかし、同じハミルトンの<キャプテン・フューチャー>シリーズや<スター・ウルフ>シリーズを読んだ後では圧倒的に物足りない。むしろ、長編ではな短編だったらまだ良かったのかもしれないけれども、このシリーズの短篇集である『太陽強奪』はさすがに読む気は起こらなかった。
ちょっと外れを引いてしまったせいで、しばらくは他の本を読もうと思ったのだけれども、本棚を眺めていたらプロンジーニ&マルツバーグの『裁くのは誰か?』が目に入った。
この本が、読みたい百冊に入っていたかどうか忘れてしまっていたのだけれども、この際だから読んでしまえとばかりに読んで、ラストであきらかになった驚愕の真相に憤慨してしまった。いや、これはこれで悪くはないけれども、ラストに至る途中の展開が、驚愕の真相の部分と照らし合わせると無理があって、その部分が無ければ少しは良かったのだろうけれども、細かいことは気にするなと言わんばかりのこの書き方はちょっとついていけない。プロンジーといえば<名無しのオプ>シリーズの作者で、ネオ・ハードボイルド派の一人なんだけれども、シリーズが進むに連れて謎解きの要素が強くなり始めて、ハードボイルドの主人公が密室殺人を扱った不可能犯罪の謎を解くといった作品まで登場する。そんなわけで、この作品もある程度のフェアプレイに基づいた展開をするだろうと思っていただけに残念だった。プロンジーニが悪かったのではなく、マルツバーグがいけなかったのかな。ただ、そんな無茶な真相を抜きにして考えれば、アメリカ合衆国大統領の苦悩を描いた作品ということで、これはこれで面白い。ジョー・ゴアスの『硝子の暗殺者』をちょっと思い出した。あれも大統領がいろいろな意味で重要な役割を担う話だった。
で、『裁くのは誰か?』の隣に『タイタンの妖女』あったので、ついでに読むことにしたのだが、やっぱりこれはもっと若い頃に読んでおくべきだったと実感。ヴォネガットのユーモアの部分がちょっと受け付けなかったのだ。でも、『タイタンの妖女』を読んだのであれば『スローターハウス5』もついでに読んでおくべきだよなあという思いも強く、死ぬまでに読みたいリストに追加することにした。
ヴォネガットの作品でいえば、気になっている作品がもう一作あって『ガラパゴスの箱舟』がその作品だ。
死亡フラグという言葉があるけれども『ガラパゴスの箱舟』では文字通り死亡フラグが登場人物に付く。登場人物の死が近づくとその人物の名前の前に「*」がつくのだ。山本直樹の『RED』という漫画で、死亡する人物の頭の斜め上付近に死亡する順番を記した番号が描かれていたのだけれども、これもいわゆる死亡フラグだった。もっとも『RED』の場合は実際の出来事をモデルとしているので、死亡する人物は最初からわかっていて、登場した瞬間から死亡フラグの番号が描かれているので死亡フラグとはちょっと違うかもしれない。ヴォネガットの『ガラパゴスの箱舟』はそれよりも早い段階で死亡フラグを扱っている。ひょっとしたら死亡フラグの概念はヴォネガットが最初に生み出したのかもしれないなと思った。
死ぬまでに読みたいリストの中にハーバートの『デューン砂の惑星』を入れたのだけれども、早川書房が70周年企画の一環として行っている復刊の中で『デューン』が入っている。新訳なので矢野徹による翻訳ではないのだが、この際だからこの復刊された方を読む予定なんだけれども、読み終えたら多分、『鞭打たれる星』も読みたくなる気がする。この本も買ったのはいいけれども積読にしてしまった本だ。
同じく、フレドリック・ブラウンの『Bガール』もリストに入っているけれども、うれしいことに論創社から未訳だったブラウンの最後の長編ミステリも翻訳される予定になっている。どうせならこれも読みたい。この二冊を読めば、とりあえずブラウンの長編ミステリは全て一度は読んだことになるので、ブラウンの長編ミステリ全てのあらすじをまとめた記事を書いてみたい気もするのだが、実際に書くかどうかはわからない。
わからないといえば、リストの中にある、依井貴裕の『夜想曲』が突然、電子書籍化されたので、とりあえず手に入れておいたのだが、手に入れたからといって必ず読むかどうかはわからない。
論創社からは、ハリー・スティーヴン・キーラーの『ワシントン・スクエアの謎』も出る。アール・ノーマンの『ロッポンギで殺されて』が翻訳された時にも驚いたけれども、ハリー・スティーヴン・キーラーが翻訳されるとは思いもよらなかった。ついでにジプシー・ローズ・リーの『Gストリング殺人事件』も、クレイグ・ライス名義でいいから翻訳してくれるとありがたい。
プロンジーニの本をうっかり読んでしまったことでネオ・ハードボイルド派の大事な作品を未読だったのを思い出した。ロジャー・L・サイモンの『ワイルドターキー』だ。
ポケミスで翻訳されていたけれども、ロジャー・L・サイモンは何故か文庫化されなかったので未だに読んでいない。これも読んでおかないといけないよなあ。
というわけで、リストに追加した。
六冊読んだのに五冊追加されて、この分だと読めば読むほど追加されていく作品が増えていくような気がする。
- 『334』トマス・ディッシュ
『Bガール』フレドリック・ブラウン『Gストリング殺人事件』ジプシー・ローズ・リー『アメリカ鉄仮面』アルジス・バドリス- 『アンドロイドお雪』平井和正
- 『西の反逆者』フレッド・セイバーヘーゲン
- 『黒の山脈』フレッド・セイバーヘーゲン
- 『アードネーの世界』フレッド・セイバーヘーゲン
- 『ガラスの塔』ロバート・シルヴァーバーグ
- 『生と死の支配者』ロバート・シルヴァーバーグ
- 『コーネル・ウールリッチの生涯(上・下)』F・M・ネヴィンズ・Jr
- 『栄光の道』ロバート・A・ハインライン
- 『仮面物語』山尾悠子
- 『デッド・ガールズ』リチャード・コールダー
- 『デッド・ボーイズ』リチャード・コールダー
『デューン砂の惑星』フランク・ハーバート- 『燃える世界』J・G・バラード
- 『ミュータント』ルイス・パジェット
- 『不老不死の血』ジェイムズ・E・ガン
- 『二重太陽系死の呼び声』ニール・R・ジョーンズ
- 『冬長のまつり』エリザベス・ハンド
『夜想曲』依井貴裕- 『大宇宙の守護者』クリフォード・シマック
- 『大破壊』ジョン・クリストファー
- 『太陽自殺』エドマンド・クーパー
- 『宇宙製造者』ヴァン・ヴォクト
- 『密猟者たち』トム・フランクリン
『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』鈴木悦夫- 『放浪惑星』フリッツ・ライバ-
- 『闇の聖母』フリッツ・ライバー
- 『時間帝国の崩壊』バリントン・J・ベイリイ
- 『最終戦争の目撃者』アルフレッド・コッペル
- 『槍作りのラン』クリス・ネヴィル
- 『死の世界1』ハリイ・ハリスン
『死の接吻』アイラ・レヴィン- 『収容所惑星』ストルガツキー兄弟
- 『蟻塚の中のかぶと虫』ストルガツキー兄弟
- 『波が風を消す』ストルガツキー兄弟
『深海の宇宙怪獣』シオドア・スタージョン- 『熱い太陽、深海魚』ミシェル・ジュリ
- 『爆発星雲の伝説』ブライアン・W・オ-ルディス
- 『神様が降りてくる夏』飛火野耀
『窒息者の都市』レジス・メサック- 『精神交換』ロバート・シェクリィ
- 『金星応答なし』スタニスワフ・レム
- 『ある詩人への挽歌』マイクル・イネス
『もし星が神ならば』グレゴリ・ベンフォ-ド、ゴ-ドン・エクランド- 『アインシュタイン交点』サミュエル・R.ディレ-ニ
- 『鉄の夢』ノ-マン・リチャ-ド・スピンラッド
『アルカイック・ステイツ』大原まり子- 『オブザーバーの鏡』エドガー・パングボーン
- 『ギャラウェイ事件』アンドリュー・ガーヴ
- 『グレイベアド』ブライアン・W・オ-ルディス
『ジャガー・ハンター』ルーシャス・シェパード- 『スク-ルボ-イ閣下(上下)』ジョン・ル・カレ
『ストリ-ト・キッズ』ドン・ウィンズロ-- 『ゴ-メンガ-スト』マ-ヴィン・ピ-ク
- 『タイタス・アロ-ン』マ-ヴィン・ピ-ク
- 『テラプレーン』ジャック・ウォマック
- 『ディファレンス・エンジン(上下)』ウィリアム・ギブソン、ブル-ス・スタ-リング
- 『トレント最後の事件』E・C・ベントリー
『ドグラ・マグラ』夢野久作『ドラキュラ紀元』キム・ニュ-マン- 『ビッグ・タイム』フリッツ・ライバー
- 『フィアサム・エンジン』イアン・バンクス
- 『ポーラー・スター』マーティン・クルーズ・スミス
- 『リトル、ビッグ I II』ジョン・クロウリー
- 『レッド・マ-ズ(上下)』キム・スタンリ・ロビンソン
- 『ヴァレンタイン卿の城(上下)』ロバート・シルヴァーバーグ
- 『中村雅楽探偵全集2 グリーン車の子供』戸板康二
- 『人魚とビスケット』J・M・スコット
『何かが道をやってくる』レイ・ブラッドベリ- 『光の王』ロジャ-・ゼラズニイ
- 『大坪砂男全集1』大坪砂男
- 『大坪砂男全集2』大坪砂男
- 『大坪砂男全集3』大坪砂男
- 『大坪砂男全集4』大坪砂男
- 『悪い夏』松村光生
- 『怒りの日』松村光生
- 『目醒めの時』松村光生
- 『恋人たち』フィリップ・ホセ・ファ-マ-
- 『所有せざる人々』アーシュラ・K・ル=グウィン
- 『拳闘士の休息』トム・ジョーンズ
- 『歌の翼に』トマス・ディッシュ
- 『煙滅』ジョルジュ ペレック
- 『狩久探偵小説選』狩久
『緑は危険』クリスチアナ・ブランド- 『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ
- 『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン
- 『赤毛のレドメイン家』イーデン・フィルポッツ
- 『金曜日ラビは寝坊した』ハリイ・ケメルマン
- 『魔都』久生十蘭
- 『闇に踊れ!』スタンリイ・エリン
- 『銀河乞食軍団』野田昌宏
『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア- 『鞭打たれる星』フランク・ハーバート
- 『ワイルドターキー』ロジャー・L・サイモン
- 『ワシントン・スクエアの謎』ハリー・スティーヴン・キーラー
『アンヴローズ蒐集家』フレドリック・ブラウン『タイタス・グロ-ン』マ-ヴィン・ピ-ク『死にゆく者への祈り』ジャック・ヒギンズ『エスパイ』小松左京『渚にて』ネビル・シュート『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア『銀河大戦』エドモンド・ハミルトン
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