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- 『ラヴァーズ・キス』吉田秋生
鎌倉を舞台とした高校生の複雑な恋愛模様。映画化もされた『海街Diary』と登場人物と舞台がリンクした設定だが、こちらのほうが先に描かれているので、『ラヴァーズ・キス』だけ読んでもまったく支障はない。
一人の少年の存在を中心に大きくわけて三つの物語が語られる。最初の話は、里伽子という高校生の少女があまり良い噂のない同級生の少年、藤井を好きになってしまう話。最初はちょっとだけ気になるだけの存在に過ぎなかったのが、藤井にまつわる噂が噂でしかなかったことを知り、彼の本当の姿を知ることによって徐々に彼のことを好きになっていく。これがBoy Meets Girlの話。
続く話は、藤井の事が気になってしまう後輩の少年、鷺沢と、その鷺沢を好きになってしまう後輩の少年、緒方の話。物語の中盤、鷺沢が緒方に好きだということを告白されることによって鷺沢は、藤井に対する自分の気持ちがなんだったのかを理解する。これがBoy Meets Boyの話。
最後は里伽子の友人、美樹と里伽子の妹、依里子の話。姉に対してギクシャクとした感情しか持てなくなった妹の依里子は美樹のことを好きになってしまう。しかし、美樹の気持ちは里伽子に向いていることを知ってしまう。これがGirl Meets Girlの話。
それぞれの話は同時進行しているので、最初の方の話での何気ない会話の裏に、その人が本当はどんな気持ちでそのセリフを言ったのかということが明らかになり、読みおえてもう一度さいしょから読み返したくなる。エピソードを積み重ねていくうちに少しづつ登場人物をとりまく全体の様子が浮かび上がってくる語りのうまさは職人芸的なうまさでもある。
ついでに『海街Diary』との関係に関しても書いてみよう。
『ラヴァーズ・キス』と『海街Diary』。20年近く隔たれて描かれた二つの作品を並べて読みなおしてみると、『ラヴァーズ・キス』の世界と『海街diary』の世界がリンクしているのはさすがにちょっと無理がある感じもする。そもそも同じ人物であるのに絵柄が異なる、というのはそんなに問題ではないけれども、『ラヴァーズ・キス』が等身大でのヒリヒリとした切実な描かれかたであるのに対して、『海街diary』は大人の視点から見た子供、いうなれば作者の、浅野すずに対する視点と同じ視点でもって描かれる藤井朋章という人物像は一人の人間を別の角度から見るという点においては新鮮である反面、続けざまに読むとそのギャップの大きさは受け入れがたいという部分もある。そういう点では、この二つの作品は20年という時間を経たファンに向けての作者からのちょっとした贈り物なのかもしれない。
オリジナルは全2巻だが後に一冊にまとめられた新装版がでている。
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