1リットルの水と500kmの夢、そして電気


先週、面白いニュースを知った。
水1リットルで500km走るバイクが発明される
僕はこういうバカバカしい事をする人が大好きだ。
なにがバカバカしいのかというとこのバイク、水で走るように書かれているけれども、実際は水素と酸素を燃焼させて走っている。で、その水素と酸素をどうやって作っているのかといえば、バイクに載せたカーバッテリーで水を電気分解することで作り出している。
つまり、このバイクのエネルギー元は実は水ではなく、カーバッテリーなのだ。
言い換えれば、電動自転車を作ったけれども、モーターを回すための電気をバッテリーに頼るのではなくペダルをこいで発電機を回し、その電気でモーターを動かしているようなものだ。
有名な熱力学の法則を元に考えてみると、電気分解してできた水素を燃焼させて得られるエネルギー量というのは、電気分解するのに必要なエネルギー量よりも少なくなる。つまりバッテリーで水から水素を作りエンジンを回すよりも、バッテリーで電気モーターを動かす電動バイクを作ったほうエネルギー効率はいいのだ。
何故ならば通常、水の電気分解というのは大量の電気を必要とし、変換効率は約10%程度といわれている。つまり電気の90%は無駄になる。もっとも、高温水蒸気電解といった方法を使えば50%近い変換効率を得ることができるが、そのためには水を高温状態にしなければいけなくなり、そのためのエネルギーとして電気が必要となる。
さらにいえば、水というのはそのままでは電気分解しにくい物で、理科の実験などで水の電気分解をするときに水酸化ナトリウムを溶かしたりするのは電気分解しやすくするためなのだが、このバイクの場合そんなものなど使おうとしない。後半の映像では泥水を使っているけれども、むしろ泥水を使ったほうが効率が上がる可能性は高いのだけれども、電気分解の変換効率など無視しているあたりは潔くって個人的には好感が持てる。
というわけで、仮にこのバイクの水の電気分解の変換効率を50%と仮定し場合、どうなるか考えてみよう。
一般的に電気モーターの変換効率は50%である。この時点で、水素エンジンの変換効率が100%でなければ電動バイクと対等とはならず、熱力学の法則からいって100%の変換効率のエンジンは作ることはできないので、カーバッテリーの電気を素直に電気モーターにまわして電動バイクにしたほうが効率がいいということになる。つまり、水の電気分解での変換効率が50%を下回る場合はどんなに頑張っても電気モーターの方が効率がよくなってしまう。電気分解の変換効率が70%だったとした場合でも水素エンジンの変換効率が72%以上でなければ電動バイクよりも効率が悪くなる。そしてそこまで努力したとしても、それに必要な電気は別の方法で作り出さなければいけない。
このように、水の電気分解をしながら水素エンジンを回して走るということはおそろしく効率の悪い方法で、強引に水素エンジンを載せるのであれば水素の製造はあきらめて、水のタンクの代わりに水素タンクを載せ、水素の製造はもっと効率のよい方法で製造する方法を取ったほうがいいのだが、そんなものを作ったって個人的には面白くはない。
やはり水から水素を作り、そしてエンジンを回す。どんなに効率が悪くても、夢の理想エンジンになどなることなどなくっても、そこには浪漫がある。
今のガソリンエンジンが水素エンジンに切り替わった時、排気ガスは無くなるだろうけれども、代わりに水蒸気が出る。交通量の少ない田舎だったら問題は無いだろうけれども、大都市の場合、この水蒸気の量はどのくらいの影響をあたえるのだろうかと思う。無視出来る量とは思えないし、湿度は今よりも上昇して蒸し暑くなるのだろうかねえ。
週末、時間があったらスーパーカブのエンジンを基準にして水素エンジンを回すのに一秒あたりどのくらいの水素を製造しなければいけないのかを計算してみようかと思ったのだけれどもそんな時間などなかったので、断念した。
誰か興味のある人は計算してみてください。

コメント

  1. 通りすがりのエンジニア より:

    ロマンなんて感じない、ただの詐欺だよ

  2. Takeman より:

    ご老人が独学で作った、こんな凄いエンジンとか、こんな凄い発電装置だとか喜んで話しているのをみると、それは熱力学の法則に抵触する永久機関だから、凄くはないんですよと言ってしまうのは大人げない気もするし、ちょっと気が引けてしまうのですよ。
    実際の所、数値を計算してみれば誰でも水で動くエンジンであるわけないのはわかるのですから、一概に詐欺と決めつけるのも何なんですし、僕は基本的にそういうスタンスで記事は書きません。
    それにバカバカしいのは男の浪漫じゃありませんか?

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