記事タイトルにひかれて初めてこのページをご覧になった方は、こちらを最初に御覧ください。
- 『鼻紙写楽』一ノ関圭
江戸の風俗を描いた漫画では杉浦日向子の作品が有名だが、一ノ関圭も捨てがたい。杉浦日向子の独特な世界の絵とは異なり、写実的な絵でもって描かれる一ノ関圭の江戸の風景は杉浦日向子とは違った世界を見せてくれる……のだが、一ノ関圭はもともと寡作な人で、発表される作品そのものが少ない。ただでさえ少ないのに1980年代の初め頃からさらに発表の回数が減ってしまい、もう漫画を描くことはやめてしまったのだろうかと思い始めていたのだが、2003年に突如復活し、初の長編を雑誌に連載するようになった。しかし今度は不運なことに掲載誌が休刊してしまい、連載を引き取る他の雑誌もなかったようで、そのまま中断してしまった。
が、奇跡は起こるもので、描きおろしを含めた形で一冊の本にまとまったのがこの『鼻紙写楽』だ。
歌舞伎の世界を中心として、上方、現在の大阪から江戸へ出てきた無名の絵師、伊三次(後の東洲斎写楽)が浮世絵師として活躍する物語と五代目市川団十郞とその息子との確執の物語とが複雑に交じり合っていく。惜しむらくはどう見ても未完で、というのも写楽と名乗るまで話が進んでいないうえに物語としても中途半端なところで途切れている。かといってタイトルにもナンバリングがされてはいないので、今の時点ではこの後の物語は読者が想像するしかない。
コメント