やがて消えていく言葉と、記憶

「この町にゃ一六銀行もねえじゃねえか」
先日読んだ小説の中で、登場人物の1人がこんなセリフを言っていた。
イチロクギンコウと読むのかジュウロクギンコウと読むのか判らなかった。
後日、イチロクギンコウが正しいことが判ったが、そもそもこの小説はアメリカの小説でアメリカを舞台とした物語なのだ。だからどう考えても物語の中でイチロクという名前の銀行が存在しているわけではない。
正解を書いてしまえば、この一六銀行というのは質屋の俗称で、だったら質屋と翻訳しておけばいいのではないかという気もする。しかし一六銀行という俗称の方を使うことで、このセリフを言った登場人物がどういう素性の人間なのかがわかりやすくなる面もある。なので訳者もこちらを使ったのではないかと思う。
ということで僕自身もまた一つ、新しい言葉を覚えたのだが、残念なことにせっかく覚えたとしても使いみちが無い。質屋を利用する機会は少ないうえに、質屋という言葉すら消えていこうとしている。おそらくこの一六銀行という言葉を理解できる人は僕の周りにはいそうもないし、酒の席でのうんちく話に持って行くとしても、質屋の話ではそれ以上発展させようもない。
覚えた瞬間に消えてゆく言葉なのだ。

コメント

  1. 「一六銀行」都筑道夫さんの小説の中にも登場しましたよ
    銀行の統廃合で消えてしまったのだと煙に巻くのもおもしろいかもしれませんね

  2. Takeman より:

    >「一六銀行」都筑道夫さんの小説の中にも登場しましたよ
    ええ、そうだったんですか。
    都筑道夫は大好きな作家で殆どの作品は読んでいるはずなのですが、気づきませんでした。
    ひょっとしたら、本当の銀行名だと勘違いして読んでいたかもしれません。

  3. 都筑道夫さんの本はそんなには読んでいないのですが、気になって確かめましたところ「泡姫シルビアの華麗な推理」のなかの「立聞きするシルビア」にありました
    都筑さんのうんちくはおもしろいですね

  4. Takeman より:

    わざわざ調べてもらってありがとうございます。
    シルビアシリーズの一編だったんですね。
    この本を読んだのは文庫化された時ですから、かれこれ30年近く前のことです。忘れてしまっていても無理は無いですね(^^;
    再読したい一冊でもあったので、また、近いうちに読みなおしてみます。

タイトルとURLをコピーしました