週刊 5巻以内で完結する傑作漫画99冊+α 43/99

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  1. 『増補版 TATSUMI』辰巳ヨシヒロ
    「劇画」という言葉の生みの親であり、それまでの漫画の表現方法に劇画という新しい概念をを導入した漫画家の一人。
    1980年代以降は日本よりも海外で評価されることが多く、訃報のニュースも日本よりも先に海外のニュースサイトの方が先に報道し、日本ではその真偽が疑われたぐらいである。
    辰巳ヨシヒロの絵は、劇画の持つシャープな絵というよりは水木しげるの絵に近い丸っこさがある。劇画でありながら劇画でないというのがおそらく初めて辰巳ヨシヒロの漫画を読んだ時に感じる思いだろう。
    しかし、絵柄はどうであれ、そこで描かれている物語、構図、場面の見せ方といったものは少年漫画とは違う世界であり、劇画という概念が生まれたことによって漫画の表現方法や、漫画で描かれる内容が一気に幅広くなったのではないだろうか。
    この本は傑作選なのでどの話も捨てがたいのだが強いていえば「地獄」と「グッドバイ」が秀逸。
    「地獄」は広島に落ちた原爆を主題とした、とある家の壁に焼きこまれた影の写真をめぐる物語。その影は母親と母親の肩を揉んでいる息子の姿であり、親孝行しているその瞬間に二人は原爆で亡くなったということを意味している。孝行息子の美談の写真として祭り上げられるのだが、その真相は肩を揉んでいるのではなく首を絞めているところだったという驚愕の真相。そしてそこから連なる地獄への道。原爆という地獄の世界が平和な世界へと変わっていっても、主人公はただ一人、地獄を生きているのだというモノローグで終わる。
    「グッドバイ」も戦後間もない時代の話で、生きていくために米軍相手に娼婦として生きている女性が主人公。彼女にはアメリカ人の恋人がいて、その彼は彼女に親切で結婚したいと言ってくれるけれども本国には妻がいて、最終的には主人公を捨ててアメリカに帰って行ってしまう。そして彼女に残されたものは、お金がなくなるたびに金をせびりに来る父親だけとなる。しかし、彼女はその父親と寝ることによって全てを捨ててしまおうとする。
    読んで楽しくなる漫画ではないが楽しくなるだけの物語が漫画ではない。

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