『回遊の森』と人には言えない個人の秘密

個人情報というものがいろいろと問題視されるようになって随分と時間が経っているが、日本における個人情報の法律的定義に関していえば勘違いしている人はまだまだたくさんいると思う。
つまり、住所や氏名、電話番号といった個人を特定できる情報だけが個人情報だと思っている人のことである。
もしあなたが自分の個人情報を預けなければいけなくなった時、そして不安に思った時、その相手に「ここでいう個人情報とは何を指していますか」と訪ねてみるといい。
その相手が先に書いたような返事をした場合、その人はおそらく個人情報というものを勘違いして、あるいは間違って理解している可能性が高い。だからそういう場合、あなたが秘密にして欲しいと思っている事柄は相手には個人情報としては思ってもらえず、流出してしまう可能性もある。
法律上定義されている個人情報とは、

氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

である。つまり、個人を特定できる情報とセットになっていれば、それ単体では個人を特定できない情報も個人情報なのだ。
灰原薬の『回遊の森』は他人には言えない個人の性癖や偏愛に悩む人達を描いた連作短編集である。
一つ一つの話は相互に密接につながっているわけではなく、前の話に登場した脇役程度の人物が次の話では主役となって語られるといった感じで、そして最初と最後の話は繋がる。この本のタイトルどおり、ゆるやかに物語は回遊し、同時にその物語を読む僕達もその物語の森の中を回遊していくのである。
ある人物は、人のぬくもりよりも爬虫類の冷たさの方に引き寄せられ、仕事を終えて家に帰れば、素っ裸になり飼っている蛇を抱きしめる。
人には言えないものも、いや人には内緒にしておきたいものもだからこそ立派な個人情報なのである。

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