菜時記　水無月/乙卯

妻が統合失調症を発症し、入院し、そして退院後、一年半程は僕と一緒であればなんとか買い物に出かけることができた。
しかし次第に、人目が気になりはじめ、買い物に出かけることが困難になってしまった。
だからそれ以降は僕が日用雑貨を含め一週間分の食料を週末に一人で買いに行くようになった。
菜時記　水無月/乙卯
店に入るとトマト6個で298円というポップが目についた。6個もいらないのだがこの値段ならば悪くはないのでかごに入れる。
しかし、そのまま先に進むと今度は5個で198円というトマトが目に入る。すかさず、かごに入っているトマトを元の場所に戻し、5個198円のほうをかごに入れる。
ピーマンは4個で98円。旬の時期に入り始めたので安くなってありがたい。同様にレタスも128円と先週よりも更に安くなっている。
キャベツは1/2カットで68円。少し小さめだがこれだったら文句はない。ほうれん草が一束100円と今週はなかなか野菜が安くてありがたい。
卵のコーナーに行くと30個入りのパックが売られていた。今回は卵は買う必要はないのだが、前回と同様、30個パックを持ち上げてみたい衝動にかられる。
幸運なことに、ちょっと持ち上げても大丈夫な高さの場所に置かれている卵が1パックある。
誘惑に負けてしまい、慎重に卵を持ち上げてしまった。
ああ、なるほど。
持ち上げた時の感触、パックの歪み具合と不安定さ、音、そして重さ。
さまざまな情報が一瞬のうちに僕の脳内に入ってきて、ああ、なるほどと納得した。
何の役にも立たない情報だが、持ち上げてみなければわからない情報だ。