週刊 5巻以内で完結する傑作漫画99冊+α 69/99

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  1. 『SKY』六田登
    六田登も細野不二彦と同様に少年誌でデビューした後、青年誌へと舞台を移しそこでも活躍をした。
    ただその後、六田登はメジャーではない青年漫画誌もしくはその他の雑誌で作品を発表するようになったことを思うと、細野不二彦よりは低迷しているように思われるかもしれない。しかしそれは優劣の問題ではなく、作家性の問題なのだろう。職人である細野不二彦に対して六田登は作家性の強い漫画家なのだ。六田登の描く漫画の主人公は殆どの場合、作中においてかなりの試練を受ける羽目となる。登場人物を悲惨な状況に追い詰めるのは六田登の特徴の一つであり、同時に登場人物の一人に、その作品における主題となる部分を心理学的なアプローチでもって語らせることが多い。そのあたりが好き嫌いの分かれ目で、代表作『F』が一般受けしたのは主人公の設定が破天荒でそして悲惨な状況に追い詰められてもそれを乗り越えていくだろうという安心感を持った主人公だったからだと思う。常に哲学的な主題を抱えている六田登の作品はその主題に見合う紙面でもって描かれるので大長編になることは少ない。
    六田登の作品では『遼平新事情』全2巻が好きなんだけれども、今の時代にあの作品が受け入れられるのかというと疑問もあって、それだったらこちらのほうが普遍的だろうということで『SKY』にした。
    『SKY』は長編ではなく四つの短編からなる短篇集なのだが、ここでも六田登の哲学的な主題は存在し、四つの短編はその主題にそって描かれ、そして作中の人物によって哲学的にその主題が語られる。そしてもちろんそんな小難しいことを考えずに読むこともできる。六田登の描く世界はどこにでもいる市井の人たちの人生の一瞬を切り取って見せているからだ。
    振り返ったその先にある絶対の安心をもたらす笑顔。
    心を失ったのではなく、ここにおいてきてしまったのだと捉える気持ち。
    逃れようの無い死に対して、自分自身の物語でもってその死を受け止めようとする意志。
    そして、遠く遠く大地から離れた場所に見つけたたった一つの言葉。
    そんな四つの物語である。

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