僕がもっとも偏愛している短編小説「アルファ・ラルファ大通り」が収録された短編集である。スミスの短編集は過去にも3冊出ていて、もちろんそれも持っている。それでも僕はスミスの小説を偏愛しているので、出れば買ってしまう。
「アルファ・ラルファ大通り」を読むのはこれで3度目となる。ほとんど再読というものをしない僕にとっては3回も読むというのは今のところ最長不倒距離でもある。
今回はコードウェイナー・スミス全短編集として3冊に分けて出版されるうちの2冊目。スミスの書いた短編の大部分は、一つの共通の歴史の流れの中の一場面を切り取った短編、つまりスミスの描いた未来史を構成する短編ということで、今回の短編集は作中の年代に沿った順番に並べられて編集されている。
ということで2巻目の今回は未来史の中でも一番のトピックでもある、とある出来事を中心とした話が集まっていてそれだけに他の短編と比べて傑作度が高い。
巻頭の「クラウンタウンの死婦人」は中編レベルの分量で読みがいもあるのだが、読み終えてダン・シモンズの<エンディミオン>二部作と似ていると感じた。
スミスの短編はジャンヌ・ダルクの逸話を元にしている。ダン・シモンズのほうも同じく、ジャンヌ・ダルクをベースとしたのか、それとも、<ハイペリオン>シリーズが過去のSF作品のオマージュになっていることを考えると、「クラウンタウンの死婦人」に対するオマージュだったとも考えられる。実際のところは作者に尋ねるしかないけれども、あれこれ想像を巡らせるのは楽しい。
「アルファ・ラルファ大通り」に関しては流石に新しい発見は少ないけれども、再読するたびにこの物語の細部が見えてくる感じがする。
アルファ・ラルファ大通りという言葉や、預言する機械アバ・ディンゴという言葉の響きの良さなんかはなんだかかっこいい。スミスの描く人類補完機構によって管理された社会は、他のSFで描かれたとすればディストピアな社会として描かれるだろうけれども、スミスの手によって描かれるとディストピアに見えないのは、人類補完機構があくまで人類の補完であって完全な管理をしているわけではないからだろう。だからスミスの描く物語に登場する猫は異常なまでに活躍するし、登場人物たちは甘酸っぱいほどの恋をする。
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