ミステリの世界には、ここでいうミステリというのは一般的な意味での推理小説なのだが、意外な○○というものがある。
この○○の部分に入るものは一番ポピュラーなもので犯人、つまり意外な犯人だ。
しかし、さすがに意外な犯人というものは出尽くしてしまったきらいがあり、探偵が犯人だったというのは昔はそれだけで意外な真相だったが、今では意外な犯人の部類にも入らないくらいで、それ以上に意外な犯人だと、作者が犯人だとか、もっとも作者が犯人の場合はアンフェアにみられる場合もあって少し難しいが、それでも物語の登場上人物であればおおよそ犯人にされたことのないタイプ、あるいは職業といったものはないのではなかろうか。さらには読者が犯人という、変化球もあったりするが、これでさえ既に何作も書かれていて意外でもなんでもなくなってしまってきている。
一方で、意外な動機というものがある。こちらは意外な犯人に比べると少しインパクトが落ちる部分もあるけれども、そんな理由で人を殺したのかという意外な動機というのはまだまだ未開拓な部分も残っている気もする。ただ現実の事件を見ると、理解不能な動機で犯罪を犯したりする事件もあったりするので、フィクションの世界で意外な動機を探すのはそう簡単にはいかないだろう。
ということでこの物語も意外な動機というものが特徴のひとつでもあって、過去に前例はあるものの、その変奏バージョンで一捻り加えられている。それ以上に特徴的なのは名探偵の不在で、『遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?』において登場人物の会話の中だけで登場した名探偵が今回も登場人物の会話の中だけで登場する。名探偵が不在であるがゆえに事件はおきて、そして名探偵が不在なまま事件は終わる。名探偵は登場しないので事件は解決するわけではなく、勝手に終わってしまうところが徹底している部分だ。
この先もおそらくこの名探偵の物語は書かれるのだろうけれども、しかし、その物語の中でこの名探偵が実際に登場することはないのだろう。登場してもらいたいという気持ちもあるけれども。
コメント