映画を観てしまったので、早速原作も読みなおしてみることにした。僕が最初に読んだのは通常版だったのだが、今はもう完全版しか手に入れることができないようだ。もっとも、完全版があれば通常版のほうは読む必要もないだろうし、完全版が冗長になってしまっているというようなこともないらしいので、あえて通常版を選ぶということもないだろう。
最初にパラパラとページをめくって全体を見通してみると、シュタイナ中佐達がイギリスに舞い降りるのが全体の3/4くらいであるということに驚いた。映画のほうは中盤にさしかかったあたりなのである。ではそれ以前の部分は何が描かれているのかといえば、映画では省略された現代の話、作者自身がシュタイナ中佐の存在を知り、そこから失われた物語を取材し再構成するというエピソード、そして映画では端折りに端折られた、作戦遂行までの丹念な道のりの部分である。しかし、考えてみれば主人公たちが行うのはチャーチルの誘拐という奇襲作戦である。滞在時間は短ければ短いほうが成功率は上がる。なので、準備に時間をかけ、実際の作戦実行時間は短くなるのは当然である。
映画は原作と基本的には同じであるけれども、細部が微妙に異なっていて、シュタイナ中佐が助けるユダヤ人の娘は映画では中佐が助けた直後に殺されるが、原作では助かる。作戦を計画し指揮するロバート・デュバル扮するマックス・ラードル中佐も映画では最後、ゲシュタポに逮捕され銃殺されるのだが、原作では病気で余命幾ばくもないということで見逃され、もちろん数年後には亡くなるのだが、愛する家族に看取られてという幸せな死である。
リーアム・デブリンは小男として描かれているので、ドナルド・サザーランドとはかけ離れているが、そこはまあご愛嬌というものだが、デブリンに恋してしまう村娘のモリーは、映画では横恋慕した村人を射殺してしまうというひどい設定。原作ではデブリンが敵国の人間であることを途中で知りながらも、デブリンを最後まで助ける。
映画のほうが不幸率が高い。
シュタイナー率いる落下傘部隊の面々も原作ではひとりまたひとりとそれなりに見せ場を作りつつも倒れていくのに対して、映画では時間の関係か、終盤で一気に殺されてしまう。
しかし、一番の改変はラスト、チャーチル首相と対峙したシュタイナ中佐が、映画では有無をいわさず銃で撃って殺しているのに対して、原作では殺していないという点だ。
さらにラスト、スクリーンには唯一生き残った落下傘部隊の副官をのせた魚雷艇が座礁しているシーンが映しだされる。あまりにも無情すぎる終わり方で、原作を知らなければよかったのかもしれないが、原作を読んだあとだと、この映画は失敗作だといいたくなる気持ちも分からないではない。
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