小説と比べて漫画のほうは電子書籍化される率が高いうえに、蔵書スペースというものを考えなくてもすむので、ついつい漫画を読む比率が高くなってしまう。
去年無事完結した漫画で面白かったものは、
『WOMBS』全5巻 白井 弓子
『変身!』全3巻 横山 旬
『僕だけがいない街』全8巻 三部 けい
『橙は、半透明に二度寝する』全2巻 阿部洋一
『WOMBS』は途中から連載ではなく描き下ろしという形になったけれども、掲載誌が休刊という状態になってしまい、それにともなって掲載誌の名前を冠したレーベルも終了せざるをえなくなり、結果、描き下ろし作品とはいえども、残り1巻しか出すことができなくなってしまったという残念な結果になってしまった。おそらくは完結までに2巻くらいは必要としたかも知れない物語を1巻で収めなければいけなくなったためにか終盤は畳み掛けるようなスピードで物語りが収束していくのだが、ありえたかもしれない本来の物語も読みたかったというのはわがままだろう。
同様に『変身!』もそれまでののんびりとした展開からすれば少し違和感を感じるくらいのスピードで物語が収束していった。幼少期からの成長物語という体裁でありながら、最後まであまり成長することのなかった主人公の物語はもう少し先まで読みたかったという気持ちもあるが、成長しない主人公なのでこれはこれでコンパクトにまとまったというべきなのだろう。
それに比べると『僕だけがいない街』は十分な長さで、満足した話だった。
『橙は、半透明に二度寝する』は長編ではないので本当にこれで完結したのかと疑問に思う部分もあるけれども、最終話は最初の第一話につながる円環構造となっているので、これで完結したのだろう。
その他で面白かったのは次の2冊
『兎が二匹』全2巻 山うた
『カナリアたちの舟』高松 美咲
『兎が二匹』はアンハッピーエンドから始まる物語。ハッピーエンドにはならない物語がどのような結末を迎えるのかといえばアンハッピーエンドにしかならないはずなのだが、隙間を縫ってここしかないという地点に着地する。
『カナリアたちの舟』も同様にアンハッピーエンドにしかならないような悲しい物語。
完結していないけれども面白い漫画に関してはここでは触れないことにする。
2016年はあまりSFを読まなかった。いや2015年もあまり読んでいなかった気もする。買っていないというわけではなくって積読のままなので、周回遅れ的な感じで読んでいくことになるだろう。
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』ジャック・ヴァンス
『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』ジャック・ヴァンス
『スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇1』コードウェイナー・スミス
『アルファ・ラルファ大通り 人類補完機構全短篇2』コードウェイナー・スミス
『現代SF観光局』大森望
『ミルキーピア物語』東野司
国書刊行会のことなので出すと発表しても実際に出るのはだいぶ先だと思っていたジャック・ヴァンスの作品を集めた<ジャック・ヴァンス・トレジャリー>の一冊目と二冊目がまたたくまに出た。全3巻のこのシリーズも残すところ最後の1冊となったのだが、ヴァンスの未訳作品はまだまだたくさんあるのでこの勢いにのせてどんどん翻訳されるとうれしい。
ジャック・ヴァンスと同じく偏愛している作家、コードウェイナー・スミスの<人類補完機構>シリーズの全短編を三冊にまとめたシリーズのうち2冊が出た。刊行ペースからみて、2016年内には3冊目が出ると思ったらそうでもなく年を越してしまった。
『現代SF観光局』はSFマガジンに連載していたコラムをまとめたもの。こうして一冊にまとまってみると実に密度が高く、読んでいる時間が楽しかった一冊。
紙の本ではなく電子書籍の方ではあるけれども<ミルキーピア物語>シリーズが全巻復刊した。基本的には文庫で出ていたこのシリーズも最終作とその一つ前の作品はSFマガジン連載とその増刊号という扱いで出たために、当時の僕はいつか文庫化されるだろうと待ち続けてそしてそれっきりとなってしまっていた。
文庫化されなかった理由とかこのシリーズにまつわる話は『ミルキーピア物語(9) 京美・誕生 小さなイヤリング』にミルキーピア物語顛末記として書かれている。
広義のミステリとして、面白かったのは以下の五冊
『オータム・タイガー』ボブ・ラングレー
『ゲルマニア』ハラルト・ギルバース
『拾った女』チャールズ・ウィルフォード
『殊能将之未発表短篇集』殊能将之
『血の極点』ジェイムズ・トンプソン
復刊してくれたおかげで読むことのできたボブ・ラングレーの『オータム・タイガー』は名作と言われるだけあって面白かった。冒険小説の部類だけれども、面白い冒険小説を読むと他の冒険小説も読みたくなる。
『ゲルマニア』は翻訳されたのは2015年で一昨年なんだけれども、その時からちょっと気になっていたが、分厚かったので先延ばしにしていた作品。その後続編が翻訳されたので、思い切って読んでみた。謎解きとしてはそれほど驚く内容ではないけれども、敗戦間近のベルリンを舞台に、ユダヤ人の元刑事が連続殺人事件を追うという設定勝ちの話で、これで面白くならない方がおかしかった。
チャールズ・ウィルフォードの『拾った女』は暗黒小説。主人公たちの行動からして既に破滅に向かって一直線でありながら、物語は一直線ではない曲者。
殊能将之が亡くなって3年。最後の長編が2004年で、その後は2009年に短編ひとつだけ発表しただけだったので、未発表短編があったとは思いもよらなかった。しかし、小説の数はともかくとして文章量は膨大な人だったと思う。
殊能将之と同じく突然の訃報に驚いたジェイムズ・トンプソンの遺作『血の極点』も無事翻訳された。主人公たちの物語はまだまだ続くのだろうけれども、この話で終わってもそれほど違和感は無い。
SFとミステリ以外で面白かったものは次の8冊
『なんらかの事情』岸本佐知子
『スタッキング可能』松田青子
『俺はNOSAKAだ』野坂昭如
『ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観』ダニエル・L・エヴェレット
『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』モリー・グプティル・マニング
『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』海猫沢めろん
『この恋と、その未来。5 ―二年目 秋冬―』森橋 ビンゴ
『この恋と、その未来。6 ―三年目 そして―』森橋 ビンゴ
やたらと面白いエッセイを書く岸本佐知子の『なんらかの事情』は文庫化にあたり未収録分を少し増量。
こんな文章を書かれたら自分がこうしてブログで駄文なんて書いているのが恥ずかしくなるくらいに素晴らしかったのが『スタッキング可能』
『俺はNOSAKAだ』は「骨餓身峠死人葛」が収録されていたので購入。
野坂昭如の作品はほとんどが絶版になって久しいが、著者が亡くなったことを機に入手困難だった作品がまたこうして読めることとなった。「骨餓身峠死人葛」以外にも「乱離骨灰鬼胎草」も収録されていて堪能することができた。
太郎は生きていると次郎は考えていた。
というような再帰的な文章を作ることのできない言語、ピダハン語とその言語を使うピダハンの人々についてのノンフィクション。
再帰がないだけではなく、家族関係を表す言葉や数を表す言葉などがなく、神話にあたる物語も持ち得ていない種族ピダハンの文化というのは興味深いうえにいろいろと考えさせられる。言語的に特異なピダハン語でコミュニケーションを取ることができているということを考えると、人工知能における言語のあり方の可能性というものにも一考の価値があるのではないだろうか。
第二次世界大戦中、アメリカはドイツと武力での戦いをしていたが同時に書物でもっても戦いを挑んでいたというのが『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』。
本の力いや、物語の力の大きさをまざまざと見せつけてくれる。
小説ばかりではなくノンフィクションも書いていたのに驚いたのが海猫沢めろん『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』。
さまざまな技術の最前線の人たちにインタビューを行い、そして機械と人とのつながり、それは単純に人が機械をどのように扱うべきなのかというような問題ではなく、機械を人に近づけていくという世界と、人は機械に置き換えるあるいは、人と機械との違いといった哲学的な問題を垣間見せてくれた。
『この恋と、その未来。』は5巻で打ち切りになるはずだったのが、とにかく最終巻まで出せてよかったよ。内容はといえばライトノベルとして文句なしで、ライトノベルとして出すことができたということにも意義があると思う。
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