詠坂雄二は名探偵の不在を描く。
この本はゲームを題材としたミステリで、僕も昔はゲーム好きで、もちろん今でもゲームは好きなのだが、昔ほどゲームに費やす時間を取りたくないというせいもあって、今ではほとんどゲームはしていない。
この本で扱われているゲームはスーパーマリオ、ぷよぷよ、ストリートファイター2、ドラゴン・クエストと、僕がゲームに熱中、いや日常生活の余剰時間の殆どをゲームに費やしていた時期と重なる。
作中で語られるゲームに関する話題も楽しく、懐かしい思いでいっぱいになるのだが、それと同時にこの物語はミステリである。したがって謎があり、そしてその謎は探偵役によって解決される。しかし、冒頭に書いたように、登場人物を同じとする一連の連作短編集であるこの物語の中で、探偵役は途中退場し、その後は語り手が謎を解いていくことになるのである。もちろん、誰が探偵役であってもかまわないのだが、探偵役が途中で交代してしまうのだ。
凝った構成であるが凝っているといえば、ぷよぷよを題材とした話も凝っている。
冒頭の部分は語り手の中学生時代のゲームにまつわる初恋の話がつらつらと回想録的に語られる。そしてその回想録を読んだ探偵役の人物は、その回想録がリドルストーリーになっていると語り手に問いかけるのだ。もちろん回想録の中では謎は登場しない。読者も驚きである。
それまで読んでいた初恋の物語の中に解かれるべき謎が存在し、そして物語の中にある情報だけでその謎が明らかにされるのである。
その一方で芥川龍之介の「藪の中」のように事件の真相は藪の中へと消えていってしまう話があったりと、オーソドックスなミステリからは少し脇道にそれた話が大半であるが、その本筋からの外れ具合が好きな人にはたまらないミステリだ。
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