アンブローズ蒐集家

フレドリック・ブラウンの最後の未訳長編ミステリが翻訳された。
これで記憶にある範囲では未読の長編は『Bガール』だけとなったわけだが、ブラウンの長編ミステリを全て記憶しているのかというと怪しい部分もある。
それはさておき『アンブローズ蒐集家』はエド・ハンターシリーズの4作目。エド・ハンターシリーズは創元推理文庫で翻訳されていたのだけれども、その順番はシリーズ順ではなくバラバラで、そのせいか、なぜかちょうど中間のこの作品だけが未翻訳のまま残ってしまったようだ。通しナンバーはシリーズ順になるような番号を振られていたので、その時点では全部翻訳する予定だったのだろうけれども、シリーズを通して主人公たちの時間の流れも経過しているタイプの物語だったために間が抜けているというのはなんとももどかしい部分もあった。しかし、中間の物語が未読だったとしても読むのにそれほど支障があるわけでもなかったので、それほど気にすることもなかった。いや、それ以前に、僕がブラウンのミステリの方に興味を持った時にはすでに入手困難な状況になっていたので手に入るものだけでも読むことができればまだ良い方だという部分もあった。
さて、本題に移ろう。
ようやく、かけおちていた最後のピースが埋まろうとしている。期待しないほうがおかしいのだが、同時にブラウンのミステリ長編である。いくら贔屓目に見たとしても傑作である可能性などまったくない。期待せずに読むのが正しいわけで、出来る限り期待などせずに読み進めるという厄介な読み方をしなければならない。
主役の一人、アム伯父が仕事から帰ってこないというところから物語の幕が開く。
そにに、アンブローズ蒐集家なる、アンブローズという名前の人物を集めて回る存在の話が持ちあがり、アム伯父はその蒐集家に蒐集されてしまったのではないかという超自然現象的な方向を感じさせつつも、全くの手がかりのない状態から少しずつアム伯父の足取りを追いかけていく手際はブラウンのうまさがよくでている。
フレドリック・ブラウンのミステリの場合、特に『死にいたる火星人の扉』などは、火星人の存在を暗示させるような展開を見せておきながら、最終的にはSFではなく堅実なミステリとして着地させていている。その他の話もそうなので、今回も非現実的、超自然的な存在が事件に関わっている素振りを見せながらもそういう方向には進まないし、そのことを理解しているのだが、そこはブラウンの描き出す世界の雰囲気であり、その部分も含めて堪能することができる。
ただ、アム伯父が行方不明となったまま最後まで登場しないことが唯一の物足りない点である。
エド・ハンターとアム伯父が活躍する物語は長編はこれでおしまいだが、短編が幾つか存在している。これもいつの日かまとまって出てくれるとファンとしてはうれしい。

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