僕のジョバンニ

デビュー作が新人離れした傑作だったために、期待値が大きくなりすぎてその後の作品に対する評価が少しずつ落ちていくという不運な作家、穂積の新作。
とはいっても、長編一作目の『さよならソルシエ』は2巻という短さだったけれども、終盤の予想外の展開は決して嫌いではなく、むしろ楽しませてもらったし、その次の『うせもの宿』は3巻まで続いて、これも決して悪い作品でもなかった。ただ、やはりデビュー作の呪縛のようなものがつきまとっているのだ。
作者が読者に対して仕掛けるトリックがどの作品にも存在していて、もちろん読む方もそれを期待している部分もあるけれども、『うせもの宿』ではそこから脱却しようとする気配が見え始めて、そして新作である。
主人公は海辺の田舎町に住む少年。幼い頃からチェロを弾いていて、大会で優勝するほどの実力を持っているが、ただでさえチェロというあまりメジャーではない楽器、そしてそれ故に兄以外とはチェロについて語り合うことのできない孤独感を味わっている。
そんなある日、海難事故に合った一人の少年、郁未が主人公の住む町の海岸で助けられる。
事故のせいで記憶を失った郁未は身よりもないために主人公の家に預けられる。そして郁未は主人公の弾くチェロの音に引き込まれている。
主人公と主人公のことを慕う郁未はチェロの存在によって互いに心を通い始め出すのだが、1巻の終わりで二人の仲を引き裂くような出来事が起こる。秀才と天才との関係、サリエルとモーツアルトの関係を彷彿させるような悲劇に向かうのかは今後の展開を待つしかないのだが、天才に慕われる秀才という対立関係をどのように描くのだろうか。

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