笑顔でつく嘘

そう滅多にあることではないのだが、久しぶりに会った人などに、頑張れよと言われることがある。
好意から言ってくれる言葉なので、反射的に
「はい」
と笑顔で返答をする。
が、心の中では、何を頑張ればいいのだろうと思ってしまうこともある。
妻はもう、生きていくということに希望をもっていない。ただ、惰性で生きているだけである。
僕自身が頑張ってどうにかなるものでもないし、僕が頑張ったところでそれは妻の意向を無視した形でしかないし、よりいっそう、妻を傷つけてしまうだけでもある。
なにを頑張ればいいのだろうか。
どうすればいいのかすら見失っているなかでなにを頑張ればいいのだろうか。
ときどき、もう頑張らなくてもいいだろうと思うこともある。
そんなときに、頑張れよと声をかけられると、内心では頑張るつもりもないのに、「はい」と答えてしまう。
ごめんなさい、いま言った言葉は嘘なんです。
頑張ることすらできません。
しかし、そんなことを正直に話したところでなにがどうするわけでもない。嘘をついていることの罪悪感を抱えながらも、僕は笑顔で嘘をつくのである。
だから僕の嘘には気づかないでやってください。

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