魔女の棲む町

人口三千人ほどの小さな町。その町には魔女の呪いがかけられていた。
そこに住んでいる人はその町から出ることができない。かりにその町から外に出たとしても、しばらくの間は大丈夫だが、数日後には死への欲望が高まり自殺してしまうのだ。この町で生まれた者、この町へ引っ越してきた者、すべてその町にとらわれてしまう。
ホラー小説なので普通ならば手に取るつもりはなかったのだが、作者がSF小説を書いていたことと、設定の部分がどこかジェローム・ビクスビイの「きょうも上天気」を彷彿させる内容だったことで思わず買ってしまった。
ジェローム・ビクスビイの「きょうも上天気」の場合は全知全能ともいえる能力を持った少年によって世界から隔離されてしまった小さな村を舞台に、全知全能の少年の怒りを買わないように、腫物でもさわるかのように少年に接するしかない村人たちの恐怖の物語だったが、この物語も同様で、ただし、あちらがある程度は少年とのコミュニケーションが可能であるのに対して、こちらの魔女はコミュニケーションが不可能である。目も口も堅く縫い取られており、両手も鎖でつながれているというのもその理由の一つだが、魔女自身が何も語ろうとしないのだ。
しかし、物語はそこから想像する方向へとは向かわない。
物語開始早々、主人公の息子が主人公に投げかける質問が物語全体を覆う。
自分の息子とスーダンのどこかの村人全員、どちらかが死ななければならないとしたらどちらを選ぶ?
主人公は息子が助かるほうを選ぶ。
続いて息子はこう質問する。
僕自身とこの町のほかの住人、どちらかに死んでもらわないといけないとしたらどちらを選ぶ?
主人公は答える前に質問する。
この町のほかの住人の中には妻やお前の弟もふくまれるのか。
イエス。
主人公は両方助けると答える。
ああ、そうである、家族が犠牲になるのであればこう答えるしかない。
物語が進むにつれて、魔女もかつて似たような選択をさせられたことがわかってくる。自分の息子が天然痘で亡くなってしまったために魔法でよみがえらせようとしたのだ。そしてよみがえった息子の姿を見たこの町の住人によって魔女として捉えられ、もう一人の娘を助けたければ息子を殺せと要求させられる。そして魔女は娘を助けるために息子を殺す。しかし、魔女自身も町の人によって処刑させられる。そこから魔女の呪いがこの町を支配する。
物語終盤、主人公は自分の息子か、町の住人かの選択をしてしまう。
町の住人の中には妻や次男も含まれる。
どちらも助けることはできやしない。
とても悲しい話である。

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