作者の今までの作風からしてさらにはこの本が東京創元社から出ていてなおかつ表題作が日本推理作家協会賞受賞作とあっては、純粋な本格ミステリの短篇集かと思い込んでしまっていたので読み終えてちょっと驚いた。
こんな話も書くんだなあというのが素直な感想で、特に、最後の「蜜月旅行 LUNE DE MIEL」なんかは謎らしい謎があるわけでもなく、謎解きミステリとして読んでいくと、どんどんとミステリ度が下がっていくのでがっかりするかもしれない。
表題作の「人間の尊厳と八〇〇メートル」は、謎の部分よりもその過程の薀蓄の部分が面白く、量子力学の問題から人間の尊厳という問題に移り、そしてそれが八〇〇メートルという距離を走るという行為、しかも八〇〇メートルという距離そのものにも理由があって、こじつけといえばこじつけなのかもしれないけれども、この論理的な展開はミステリとしてかなり面白かった。
固有名詞などのカナを全て漢字に置き換えるという独特の文章でもって語られる二つのエピソードからなる「北欧二題」は、謎としては小粒なのかもしれないが、特に後の方の話は、明確な答えが出ないにもかかわらず、納得のいく答えを導き出すという点では面白い趣向のミステリだ。
「蜜月旅行 LUNE DE MIEL」は謎らしい謎が無いだけに一番印象の残る話だった。
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