酷暑刊行会のジャック・ヴァンス・トレジャリーもこの本でおしまい。
といっても、訳者解説を読んでも、まだまだ未訳の傑作も多いジャック・ヴァンスの作品、そしてジャック・ヴァンスの人気もあって、これでおしまいとは言い切れないので、第二期ジャック・ヴァンス・トレジャリーが始まるのを気長に待ちたい。
さて、三巻目は長編+短編の変則的な組み合わせ。
表題作にもなっている『スペースオペラ』が長編で、といってもページ数でいえば約250ページ、そんなに長い話ではない。が、中身は濃い。
そもそも、スペースオペラといえばSFのジャンルの一つで、宇宙を舞台とした冒険活劇のことを指す。しかし、ジャック・ヴァンスはそんな言葉を作品名につけながら、中身は全然別、というか言葉通りの内容、つまり宇宙での歌劇の物語を書くという、冗談のような話だ。それゆえにか今までの中で一番笑える作品で、読んでいてにやにやしてしまう。
歌劇が上演できるように宇宙船を改造して、選りすぐりの歌劇団員を集めて、そして様々な惑星に立ち寄り、異星人相手に地球の歌劇を上演するという設定。
犯罪者ばかりを集めた惑星では、歌劇団員がひそかに誘拐され、整形手術で犯罪者たちが歌劇団員にすり替わる。この惑星から抜け出すためなのだが、入れ替わったことがばれないように犯罪者達が歌劇を上演するという冗談のような展開をしたりと珍道中は楽しい。その一方で、物語の中心となる謎に関しては少しばかり肩透かしを食らってしまう部分もあるが、そこはご愛敬といったところで、もっと読みたいという飢餓感ばかりが後に残るのが最大の欠点だ。
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