五分間

いつもより5分ほど早く家を出たのだが、目的地に着いたのはいつもと同じ時間だった。
雨が降っていたせいだと思うが、ここで問題にしたいのはその原因にあるのではなく、自分の努力とは無関係なところで、神の見えざる手によって、というのは大げさかもしれないが、ようするに僕自身の5分という時間はどこかに吸い取られて消えてしまったということである。
逆に言えば、僕自身の5分という時間は自分にとっては大事な時間であったとしても情け容赦なく、あるいは虫けらのごとく消え去ってしまうことがあるということであり、たった5分という時間は「たった」という言葉を付けても違和感がないとおり、塵のような時間なのだ。
これが5分ではなく10分という時間を提供していたとしたらどうだろうかと考えるが、多分、10分のうちの5分は同じようにどこかへ消え去ってしまっていつもより5分だけ早く到着していただけにすぎないのだろう。そう考えると何をどうしたとしても、5分という時間はあらかじめ何の見返りもなしに失われることが約束されている時間であって、それは世界という空間を移動するにおいて必ず発生する摩擦のようなものによって消滅してしまう時間なのだろう。

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