アメリカン・ウォー

戦争は銃で戦うが、平和は“物語”で戦うものだ

この作者も物語の力というものを信じているのだろう。
上下巻あわせて約600ページ。
分冊しなくてもいいのではないかと思うページ数だが、それはともかくとして近未来のアメリカを舞台とした物語ということで想像するほどSFらしさはまったくない。
どういう未来なのかといえば、温暖化防止のためにアメリカ全土で化石燃料の使用を禁止するという法律が制定された結果、経済活動を化石燃料に依存している南部の州が独立を宣言し内戦状態になったというだけで、その他にSFらしいガジェットは無人の爆撃機と太陽光発電での乗り物くらいだ。
現実には起こっていないとはいえ、ありえるかもしれないと思えるだけの説得力はあって、というのもアメリカではかつて奴隷問題で南北戦争が起こった国だという理由もあるのだが、歴史の大局を描くのではなく、あくまで一家族の姿を中心として描くことによって、主人公一家の感情というものがストレートに伝わってくるからだ。
そして、作者がジャーナリストだからというのもその一因だろう。
主人公一家にやみくもに感情移入をさせるような書き方をするわけではなく、主人公自身の悲劇を客観的に描くことで、主人公が何故そのようなことをしたのか、そしてそこまで行わなければいけなかったのか、を読者に問いかけてくる。
憎しみは憎しみを産む。どこかで憎しみの連鎖を断ち切らなければいけないのだが、社会が生み出した憎しみに対して、それを断ち切るのは個人なのだろうか、個人がそれを断ち切るということをしなければいけないのだろうか。

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