13・67

香港の歴史を遡るようにして語られる連作短編。どの話も密度の濃いアクロバティックな真相でこれだけでもお腹がいっぱいになるのだが、最終話にはやられた。
それまでの設定を手玉に取るかのような構図で、最終話を読み終えると最初の話を読み返したくなるというみごとな円環構造だ。
最初の話は、末期癌でほぼ昏睡状態、体を動かすことはもちろん、喋ることも見ることもできない元刑事が謎を解くという話。いわゆる安楽椅子探偵なのだが、彼に残されているのは聴覚と明晰な頭脳のみ、そこで脳波の測定によってyesかnoという信号を受信する装置を付けることによって病室で謎を解くのである。究極の安楽椅子探偵ともいえる。
そしてこの頭脳明晰な元刑事が主人公となるの話なので歴史を遡って語られていく話の中で少しづつ若い頃の彼の姿が描かれていく。
したがって安楽椅子探偵は最初の話だけなのだが、安楽椅子探偵だから面白いという話ではない。警察という組織の一員にすぎない刑事が探偵役でありそのうえで探偵対犯人という対決の構図をもってくる。そもそも組織というしがらみの中でしか動くことができない刑事でありながら、悪魔的な犯人との対決をするという上で、どこかで警察という組織を逸脱しなければいけないという部分の大義名分を正義というところにもってきて、そして警察にとっての正義とは何かという命題を突きつけるのである。
そういった社会派ミステリとしての部分も融合しながらチェスタトンばりの唖然とする真相を持ってくるのだから、脱帽するしかない。

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