Ms.マーベル

イスラム教徒の女子高生が主人公ということで話題になったのだが、翻訳されるかなと思っていたら翻訳された。
アメコミのヒーローというと男性が多く、もちろん女性もいるのだが、主役となると少なくなる。
イスラム教徒というのは世界レベルで見ればキリスト教徒に匹敵するくらいの人口がいるのだが、アメリカ国内に限った場合はまったく違って約1%くらいしかいないらしい。
というわけで女性でしかもマイノリティな人種がヒーローとなるというのはずいぶんと野心的な試みだ。
主人公のカマラはあるときキャプテン・マーベルと出会い、そこでキャプテン・マーベルになりたいと願ってしまったためにキャプテン・マーベルに変身できる能力を持ってしまう。
キャプテン・マーベルが既に存在しているのにさらに新たなキャプテン・マーベルが出来上がってしまうのはなんなんだ、という気もしないでもないが、ウルトラマンと帰ってきたウルトラマンのような関係と考えればいいのだろう。
ただ、ややこしいのはここでいうキャプテン・マーベルはMs.マーベルのことで、初代のキャプテン・マーベルは別にいる、というか、いた。Ms.マーベルはキャプテン・マーベルの恋人で、キャプテン・マーベルが病死して、さらに彼の息子も戦死していたのでキャプテン・マーベルという名前を襲名したのだ。そしてここにきて女子高生のカマラが変身能力を得て、Ms.マーベルを襲名する。キャプテン・マーベルの方を襲名しなかったのはキャプテン・マーベルを新たな視点で描きたかったのではなくMs.マーベルを新たな視点で描きたかったという物語とは別の事情によるものだ。
まあそれはともかくとして、他のアメコミ・ヒーローと違ってカマラには両親とお兄さんがいて一緒に暮らしている。さらにお兄さんはニートであり、カマラ自身もアメコミオタクだ。その場の勢いでキャプテン・マーベルになりたいと言ってしまったことからアメコミヒーローレベルの能力を得てしまったことで、ではその力をどう使うのか、どう使えばいいのかということに悩む。そもそもキャプテン・マーベルも能力を与えただけで使い方などまったく教えずにさっていってしまったのだ。
自分の能力をどのようにコントロールすれば良いのかに関しては自分自身で学ぶしかなく、かといって世界の平和のために役立てようと思ったとしても、両親から見ればごく普通の女子高生にすぎなく、普段は学校に行かなければいけないし、夜は夜で勝手に出歩くことなど許されてはいない。大いなる力とその力を使うことの難しさに悩むことになるのだが、しかしそれ以前にイスラム教徒としての自分自身と社会とのかかわり合いや友達関係などに悩んでいるわけで、カマラ自身にとっては等身大の悩みのことのほうが重要でもあるが、わりと前向きである。
この巻では宿敵となる悪役が姿を表したところで終わるが、このまま等身大のヒーローとして描かれていくほうが面白くなりそうである。

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