母の記憶に

テッド・チャンの作品がもっと読みたいのだけれども生憎とテッド・チャンはものすごい寡作の人なのでかいてくれない。その隙間を埋めてくれるのがケン・リュウなのだろう。と最初のうちは思っていた。
たしかにテッド・チャンが書いても不思議ではない作品というのもあるが、それ以上にテッド・チャンには書けない、あるいは書かないだろう作品のほうが多い。
無人戦闘機を操縦して戦う父親を持った女性。父親は無人機を通して相手の兵士を殺すことによって心を病む。そんな父親と同じように心を病んでしまう人を救うために彼女は完全無人の自動で戦う兵器の頭脳部分のプログラム部分の開発にたずさわる。
しかし、テロリストたちは自動兵器の盲点をついて、自動兵器が攻撃対象と判断していない子供達を戦わせるようになり、その結果子どもたちが死ぬ。
彼女は父親と同じように、自分の行為を悔み、そして挫折する。
「ループの中で」はそんな話で、技術者の倫理とはどうあるべきなのかという部分に関して考えさせられる。
表題作は不治の病に罹った母親が少しでも長く自分の娘といられるように、いや、自分の娘が大人になるまで生きていられるようにと光速に近い速度で飛ぶ宇宙船に乗り、時間を飛び越える選択をする。光速に近い速度で飛ぶことにより、相対的な時間のズレが起こり、娘の経過する時間より母親が経過する時間が遅くなり、結果、母親は娘の成長を見守ることができるようになるのだ。しかし、物語は娘の視点であり、数年に一度、数日だけ我が家にやってくる母親、自分が大人になっても母親は若いままであり、自分が年老いても母親は若いまま。いつしか鬱陶しさを感じることになる。
SFとしてのおもしろさ以外の部分のおもしろさというものがある。

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