大量殺人犯を父親に持つ主人公。
まだ母親の体内にいた時の出来事なので主人公は父親のことを何も知らない。ただ、小学校の給食に毒を入れ、児童をふくめた21人を毒殺した男ということしか知らない。
しかし、主人公は父親のことをしらなくても、加害者の家族として生きていかなければいけない。
そして自分自身も父親となるときが来たのだが、出産で、子供と引き換えに妻を失ってしまう。
失意の中、妻が生前に残したノートを見たことで主人公は自分の父親が冤罪だった可能性があることを知り、父親が犯したとされる事件と対峙することを決意するのだが、そこで主人公は事件が発生する少し前の時間にタイムスリップしてしまう。
かつて起こった殺人事件に対して事件の少し前にタイムスリップしてしまうというと三部けいの『僕だけがいない街』を思い出す。あちらは精神だけがタイムスリップするのだが、こちらは肉体ごとタイムスリップする。
『僕だけがいない街』の場合は主人公にもともと事件を回避するまで何度も同じ時間を繰り返してしまうリバイバルという能力が備わっていたという設定があるが、こちらはそういう設定はない。突然、主人公はタイムスリップしてしまうのだ。
それ故に、タイムスリップはあくまで主人公の頭の中だけの出来事でいわゆる夢の中の出来事かもしれないという可能性もはらんでいるが、そういうことはないだろう。
というのもタイトルにある通り、テセウスの船というパラドックスがこの物語で重要な役割を担うことになるわけで、全ての部品を取り替えてしまった船は元の船と同一なのかという問題が、タイムスリップすることによって主人公が事件を未然に回避しようとする行為と結びつくことになるからだ。
今の時点で、なにがテセウスの船になるのかはわからないのだが、面白い話が登場した。
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