ミステリ好きなくせにエラリー・クイーンの小説はあまり読んでいない。
国名シリーズはとりあえず有名どころは何冊か読んだが、それ以外はバーナビー・ロス名義で発表した悲劇四部作と『九尾の猫』と『最後の一撃』くらいだ。嫌いというわけでもないのだが、ミステリに関しては本格原理主義ではないので、目ぼしいものを読んでおけばいいじゃないかと思っているせいもある。
なので、いまさらクイーンの未訳の小説が翻訳されたからといって手を出すつもりはないのだが、今回翻訳されたのはクイーン名義であっても実際は別の作家が書いた代作で、しかもそれがジャック・ヴァンスであるとなると、ヴァンス好きの身としては読まない訳にはいかない。
といいながらも長いこと積読状態だったのだが、それはさておき、密室殺人で謎解きも水準以上となると期待しないほうがどうかしている。
が、実際に読んでみると、ヴァンスっぽさはあまり感じられない。まあそれはそうで、あくまでエラリー・クイーン名義として出すのだから自分の個性をだすわけにはいかない。が、登場人物は一癖も二癖もある人物ばかりで、個々の登場人物の個性の付け方はジャック・ヴァンスらしいひねくれ方をしている。それにあわせてなのかどうかはわからないが、巻頭にある登場人物一覧の人物紹介の文章もひねくれていて、そこだけ読んでもなかなか楽しめる。
登場人物がひねくれている人間ばかりなので密室殺人の謎やその解明のされる手際のよさというものが幾分霞んで見えるのは少し残念な気もする。それでいてラストは、あくまでおまけといえばおまけだが、ものすごい陳腐な展開で、それもまた楽しい。
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