見知らぬ作家なのだけれども、なんとなくだが、桜木紫乃と同じような雰囲気の話を描く人なのではないだろうかと思った。
そんなわけで買ってみたのだが、驚いたのは見知らぬ作家ではなく、かつて一度読んだことのある作家だったことだ。
早川書房の異色作家短編集の最終巻『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』に一遍、収録されていたのである。
もっとも、その本では作者名がリーアンとカタカナ表記だったというせいもあるかもしれないが、その時の感想を調べてみると案の定、ちょっとだけだけれどもその短編についても言及してあった。
というわけで、初めて読む作家だと思っていたらそんなことはなく、さらにその時の収録作もこの本に収録されていて邂逅となったわけだ。
台湾を舞台に、鹿城という架空の街に住む女性の話が多い。
前半は「色陽」「西蓮」「水麗」と登場人物の名前をタイトルにした短い話。
「色陽」は金持ちに身請けされた元芸者。しかし旦那となったその金持ちは遺産を食い潰すことしか考えてはおらず、色陽は祭り事に使われる藁人形、匂い袋や灯籠といったものを作って売ることで生計をたてていた。しかし、そういった祭り事も時代が経つにつれて合理化されていき需要もなくなり次第に生計をたてていくのにも苦しくなっていく。そんなある日、色陽は亭主に文句を言ってしまう。そしてその翌日、亭主は息を引き取る。
とはいってもなにも不思議な話ではない。時代の流れにのることのできなかった二人の話であり、たぶん、それはどうしようもなかったことなのだ。
雰囲気は桜木紫乃とはまったく違う。
考えてみればそれは当たり前のことで、台湾は北海道ではないし、北海道はもちろん台湾ではない。住む場所がことなればそこに住む人の考えも生き方も変わる。しかし、時代に合わせてうまく生きていくことのできる人もいればできない人もいる。どちらにしてもその場所で生きていかなければならない。
後半は前半に比べて長めの話になるのだが、なかなか読むのが辛い話が多い。
「花嫁の死化粧」は二二八事件の際に結婚したばかりの亭主が投獄されそして凄惨な拷問によって遺体となって帰ってきたその遺体に死化粧を行いその様子を写真に撮って残したといわれる女性の話。それから50年後、その時の写真が公開されるのではないかという噂が流れる。
「谷の幽霊」は売春で生計をたてていた二人の女性がこれまた拷問の果に殺されてしまう。埋葬されることもなく地面の上にそのままにされた遺体はいつしか塩をまかれ、その塩は遺体を覆い尽くすほどの量となり、遺体は塩の塚の中で眠り続けていくのだが、二人の魂はその遺体の中で悪鬼となっていく。そして悪鬼が塩の塚から世に出ることができたときには数百年もの時が経っていた。
「海峡を渡る幽霊」も幽霊が登場するのだが先の二作と同様、拷問の場面や死化粧を施す場面、幽霊を退治しようとして逆に乗っ取られてしまった霊媒師が乗っ取られた幽霊によって、自分がどのようにして殺されたのかを実演する場面など、なかなかエグい場面が多い。
興味深い内容なのだが、続けてもっと読みたいかというとしばらくはちょっと遠慮しておきたいという感じでもある。
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