コーネル・ウールリッチあるいはウィリアム・アイリッシュの作品で面白いのは1948年までに書かれた作品だという意見がある。
短編はさておき、長編に関していえば『喪服のランデブー』が1948年の作品で、いわゆるブラックシリーズは全て1948年以前に書かれたものだ。『暗闇へのワルツ』『幻の女』もそうである。
一方で『恐怖』はというと1950年で傑作から外れた作品になる。
僕は1948年以前に書かれたものは読んでいるので未読の作品はこれ以降、つまり全盛期の作品に比べれば少し落ちる作品しか残っていない。
まあ、最初から期待をしなければいいわけなのだが、読んでみるとさすがにちょっとつらい部分もある。
主人公は婚約者がいながらも、その婚約者とのデートが相手の都合でできなかった夜、行きずりの女性と一夜をともにしてしまう。それが全ての始まりで、それっきりで済んでいたのであればよかったのだが、その後で、その女が主人公のもとを訪れ、ゆすりをしたことから主人公の転落は始まる。一回限りのゆすりが一回で済むはずもなく、女は結婚式直前の主人公のもとに現れ脅迫をする。
そして気がついたときには女は死んでいた。
死体をクローゼットに隠し、とりあえずは難を逃れた主人公だが、愛する女性と結婚することができたにもかかわらず、死体が発見されて警察の手がまわるかもしれないという恐怖に苦しめられる日々を送ることになる。
ウールリッチの本領発揮といったところで、自業自得の結果とはいえ主人公目線であるがために読んでいて辛くなってくる。見知らぬ人間の何気ない仕草が主人公にとっては怪しい仕草に見え、そして恐怖から逃れるために殺人を犯してしまうのだ。
どんどんと転落していく主人公。どう考えても破滅の道をあるき続けているしかないし、ハッピーエンドにはならない物語。そして考えうるもっとも悲しい結末を迎え、そこから始まるエピローグは辛く切ない。
とここまでは良かった。そもそも電子書籍化されてしかも半額セールになったときに買った本だからなのだが、別件で過去の自分のブログを調べなおしていて驚くべき事実を知ってしまった。
未読の山脈にて
なんと既に一度読んでいるではないか、この本。
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