菜時記 皐月/癸亥

統合失調症を発症していらい、人の大勢いる場所を恐れるようになった妻は、買い物に行くことも困難になった。
だから僕は妻の代わりに一週間分の食料品や日常品を買うために週末、一人で買い物に出かける。
妻はときおりこんなことを言う。
「私のような人間と結婚してあなたはハズレを引いてしまったわね」
そんなことはないよ、と答えるのだが、この言葉が妻に届いているのかどうなのかはわからない。
ただ、届いていなくても、この言葉が僕の本心であることに変わりはない。
菜時記 皐月/癸亥
いつもなら200円以上するバナナが4本で149円。見過ごす理由はないのでかごに入れる。
胡瓜が1本30円だったので3本ほど買うことにする。もっとも胡瓜って世界一栄養がない野菜なのでコストパフォーマンスは悪いのだけれども、それでも栄養だけが全てというわけではないので安ければ買う。
ほうれん草が一束135円と安い。
地元野菜コーナーではそら豆が売られていたけれども、あまり程度がいいものがなく、今回は諦める。
長ネギはいつものごとく2本で213円だったので、先週のこともあって、買ってしまおうか悩むのだが、次の店でも二週続けて同じ値段ということもあるまいとここは買わずにすます。
レジで精算するといつもより安いので次の店ではもう少し買うつもりで次の店へと向かう。
トマトが4個で213円と安い。
問題の長ネギはというと先週と同じ値段だったので愕然とする。しかも先週よりも細く、短い。
かろうじて先週と同じくらいに太く長いものがあったので、敗北感を感じながらかごに入れる。
来週は諦めて最初の店で長ネギを買ってしまおうと決心する。

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