静かな炎天

前作『さよならの手口』で13年ぶりに復活、いや帰ってきた葉村晶シリーズの新作が出た。今回は短編集なのだが、もともと葉村晶シリーズは短編から始まったので短編だからどうのこうのということはまったくない。
若竹七海というとコージーミステリ、つまり殺人事件は起こってもそれほど深刻な内容にはならず、口当たりの軽いタイプのミステリを書く作家というイメージが強いのだが、実際はコージーミステリでありながらもそこに潜む悪意というものは、いや若竹七海の描く悪意というのは冷ややかで冷たく、突き刺さるのである。
さらに湿っぽさがないのは、犯行動機といった部分に同情したくなる要素が少ないせいもあるだろう。吐気がするような悪意であるがゆえに、湿っぽさもないのである。
今回は短編集なので、流石にどの話にもそういった悪意が存在するわけではないのだが、葉村晶が犯人と対峙し、事件の真相を明らかにしようとする場面などは張り詰められた冷ややかな空気感さえ感じさせる。こういった場面を読みたいがために葉村晶シリーズを待ち望んでいると言っても過言ではない。