田中小実昌ベスト・エッセイ

将棋の加藤一二三元名人が引退してからテレビでタレントとして活躍している。引退する前からテレビのバラエティ番組に出ていて人気もあったのだが、定期的にこういうおもしろいおじさんが現れる。昭和の時代だと、田中小実昌なんかもこの系譜に連なるんじゃないかと思う。
田中小実昌というと僕の場合は軽ハードボイルド小説の翻訳家としてのイメージが強かったのだが、そのうちテレビでもその姿を見るようになり、それから翻訳の方ではない小説やエッセイも読むようになった。
が、著作の多くは絶版になりいつしか忘れ去られた存在になっていったのだが、こうしてベストというかたちではあるものの、田中小実昌の様々なエッセイが一冊の本にまとまった形で新刊として手に入る状況になった。
表紙の絵をみて、どこかで見たことのある絵柄だなと思ったら、山田参助だった。
少し意外な気もしたのだが、収められたエッセイは戦時中から終戦直後の時代のことを書いたものがかなり多く、それを思うと、この本の表紙は山田参助以外には考えられないよなあと思う。
それにしても多才というか知的でありながら恥的で、生き方の振り幅が大きい人である。
と同時に、ただひたすら自分の名前に関してあれこれと書いたエッセイや、言葉がりっぱになって美しくなってしまうのは困るというエッセイを読むと、僕とおんなじ考え、もしくは同じような発想の仕方じゃないかと思ってしまう。記憶にはないけれども、多分、昔読んだ田中小実昌のエッセイが僕の血となり肉となったせいなのかもしれない。

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