『それを愛とは呼ばず』桜木紫乃

少し変わった題名である。
桜木紫乃の小説は北海道が舞台であることが多いがこの小説は珍しく北海道以外の場所が舞台となる。もちろん話の中盤では北海道が舞台となるし、登場人物の一人は北海道出身だ。しかし、舞台が北海道でないせいもあってか北海道らしさのようなものが少し希薄である。
10歳も年上の女性と結婚した男性と、容姿はきれいだがそれ以上のなにかが乏しいために女優として目の出ないままに芸能活動をしつつもホステスとして生計を立てている女性。その二人が主人公である。
ふとした偶然から知り合った二人は、自分の置かれた境遇が互いに似ていることから少しずつ連絡を取り合うようになっていくが、そこから読者が想像するような方向へとは向かっていかない。男のほうの妻は物語が始まってしばらくして事故で昏睡状態となってしまうのだが、男は妻のことを愛していて妻の回復に希望をいだいている。一方で女性の方は事務所から戦力外通告を受けて契約終了となってしまい、芸能生活に終わりを告げられてしまう。
二人の関係も男女の仲になっていくわけでもなく、心に空いた隙間を少しだけ埋めるだけの間柄のまま、ゆっくりと進んでいくのだが、しかしどこかびつというか不自然というか異様な気配をかもしだしていく。どこへと話が転がっていくのか予想もつかない。つねにどこか異様で不穏じみた気配を感じさせ、なにかとんでもないことが起こるのではないのだろうかという雰囲気をさせながらも最終章までは一つの出来事を除いて何も起こらない、というか発火しない。
タイトルの意味が判るのは最終章になってからなのだが、同時に最終章になっていきなり急展開を見せる。
発火したと思ったら最終章で、そしてそこからはそれまでの異様な気配の謎があきらかになって、ああ、そうだったのかと納得いくと同時に、ミステリとしても面白い話だったことがわかる。その一方でミステリとして描かずに描くとこういう話になるのかと思った。

コメント

タイトルとURLをコピーしました