『ささやく真実』ヘレン・マクロイ

タイトルだけ見るといかにもミステリというタイトルだが、読み進めていくとおかしなアイテムが登場する。
登場人物の一人が開発した自白剤だ。自白剤と呼ばれるものは今までにも存在しているし作中でも言及されるが、ここで登場する自白剤はそれの改良版で、秘密にしていたいことに対しての枷がなくなり、隠しておきたかったことを勝手に喋ってしまうという随分と都合の良い薬である。
そんなものがあれば、ミステリなんて探偵が推理する事なく、容疑者全員にその薬を飲ませて自白させておしまいという形になってしまうのだが、この物語はそんな方向へは向かわない。あくまで本格ミステリであり探偵が推理して犯人を見つける物語なのだ。
ではその自白剤がどういう使われ方をするのかといえは、物語の前半において、自白剤を盗んだ人物が自宅でパーティを開き、招待客にそれを飲ませて、彼らが秘密にしていたことを話させるという悪趣味な使われ方をする。その時点で殺人事件などおきないし、推理する謎も存在していない。
なんだ、その程度の使われ方なのかと思うかもしれないが、そこからまっとうな本格ミステリへと進み、きれいに着地する。読み終えてすべてを理解すると『ささやく真実』というタイトルが素晴らしく感じられる。

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