『時間線をのぼろう』ロバート・シルヴァーバーグ

ロバート・シルヴァーバーグの翻訳が止まって久しいのだが、未訳作品ではないものの過去に翻訳された『時間線を遡って』の新訳がでた。翻訳はなんと伊藤典夫であり、タイトルも『時間線をのぼろう』に変わった。
東京創元社から出ていたシルヴァーバーグの作品は全て未読だったの今回の新訳は楽しみにしていたのだが、読んでみて驚いた。
タイトルから想像できるようにタイムトラベルが可能になった未来、しかもタイムパラドックスを扱った話なのだが、シルヴァーバーグ、とくに、多作の小説工房と呼ばれた時代の作品ではなく、その後のニュー・シルヴァーバーグと呼ばれた時代の作品だったので『夜の翼』に代表される雰囲気の話だと思っていたのに対して全然軽い雰囲気の話だったからだ。
もちろん書かれた時代のことを考えると、性に奔放な時代という設定の話は決して軽いわけではなく意欲的な話だったのかもしれないが、今、読んでみると、登場人物の大半はまともではなく、主人公もわりといい加減だし、なんといっても自分の祖先に惚れて寝てしまうくらいで、避妊しているからタイムパラドックスも大丈夫という軽さだ。
それでいて時間旅行におけるパラドックスの提示と解決に関してはしっかりしていて、観光累積パラドックスに関してはパラドックスのまま置き去りにしてある気がするが、それ以外に関しては合理的な説明がされている。
が、軽いのは終盤近くまでで、それ以降になるとそれまで語られていた様々なパラドックスが主人公を悩ませる展開となり、軽さとは正反対の方向へと物語は転落していく。

コメント

タイトルとURLをコピーしました