僕が持っているのは1964年に発行されたもので、栞紐が付いていたころのもの。定価は150円と僕の生まれる前の古い本だ。
タイトルから想像できるように、ルイス・キャロルの『ふしぎの国のアリス』を彷彿させる事件が起こるミステリ。
フレドリック・ブラウンというとSF作家としてのほうが有名だし、作品をみてもSF小説のほうが傑作が多い。しかし、作品数でいえばSFよりもミステリのほうを多く書いていたし、長編ミステリに関していえば2014年までに2作を残して全て翻訳されていた、もっとも大半は絶版だが、残りの2作に関してもそれ以降に翻訳され、結果として全ての長編ミステリは翻訳されている。
これってなかなか凄いことだ。
『不思議の国のアリス』はファンタジーだが『不思議の国の殺人』はファンタジーではなく現実の世界を舞台としたミステリである。したがってどんなに不思議なことが起こってもそれは合理的な説明がつく出来事なのだが、そういったことを考える暇なく矢継ぎ早に物語は展開する。
なにしろこの物語は一夜の物語で午後6時くらいから始まって翌日の午前7時くらいまでの約12時間の物語だ。才人ブラウンだけあって、その手際の良さは際立っている。主人公は50代前半の新聞経営者。といっても地方の新聞者であり、経営者兼記者で他の社員といえば印刷を担当する人間が一人。しかも日刊新聞ではなく週刊新聞だ。このあたりはブラウンのミステリにはおなじみの設定でもある。
傑作ではないけれども、職人技が光る作品で、さりげない伏線も含めて最後には散りばめられたパズルのピースはきれいに嵌まる。
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