『春風コンビお手柄帳』小沼丹

小沼丹の単行本化されていない小説があって、さらにその小説がミステリだということでこれは万難を排して買うしかなかった。
といっても小沼丹は好きな作家だけれどもそれほど読み込んでいるわけでもない。まだまだ読んでいない作品は残っているのだが、そもそも僕が小沼丹という作家の存在を知ったのは東京創元推理文庫で出た『黒いハンカチ』を読んだことからだった。日常の謎系のミステリであるけれども、わりと人が殺されたりするので殺人事件の起こらない日常の謎ではないのだが、読後感は日常の謎系の作品と同じ雰囲気がする。そもそも日常の謎系の物語の第一人者でもある北村薫が紹介をしたくらいなのだから日常の謎で構わないだろう。
しかし小沼丹はミステリ作家ではないので、この手の話はどちらかといえば余暇だったのだろう。しかし、ミステリとしての面白さよりも作風が好きになった僕はそこから小沼丹の世界へと足を広げていった。
中にはミステリ要素のある話もあったけれども、あちらこちらの作品集の中にちらほらと紛れ込んでいるだけでまとまった形としては存在していない。そんなところにまだ単行本化されていないミステリ連作が残っていたわけである。
期待をして読んでみたのだけれどもさすがに子供向けに書かれた作品なのでミステリとしての面白さは少し薄い。名探偵役によって謎はあっさりと解かれるのだが、殺人事件があったりと予想外に不穏な話でそれでいてそういう雰囲気を感じさせないのは小沼丹らしいといえる。
二つのシリーズ物が五編ずつ、ノンシリーズが五編の計十五編が収録されているのだが、キャラクタの制約がないぶんノンシリーズのほうが面白い。

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