ピーター・ワッツの短編集が出た。
ピーター・ワッツというと長編『ブラインドサイト』がなんともすさまじい小説だったのが記憶にある。続編も出たのだが、こちらはまだ読んでいないのも、ちょっと苦手意識というか集中して読まないと何が書いてあるのかわからなくなるような小説だからだろう。
しかし、今回は短編なので集中力が途切れても大丈夫だろうと読むことにした。
まず最初の「天使」。これは人工知能を搭載して自律的に航行することができるドローンの話をドローンの視点で描いた話だ。そしてこのドローンは戦争目的でようするに兵器である。ピーター・ワッツのすごいところはドローンの視点で描きながらも擬人化していない点だ。そしてこのドローンはミッションを遂行していくうちに自己判断の能力を獲得していく。それが自意識なのかそれとも知能なのかは明確にはされない。あくまで高度な自己判断を獲得しただけなのだ。
続く「遊星からの物体Xの回想」も「天使」と同様にとんでもない話で、映画にもなった「遊星からの物体X」の物体Xの視点で物語が語られる。ピーター・ワッツって人はつくづく非人間の視点で物語を語るのが好きな人だ。
そんなわけなので共感できる要素というのがほとんどない。いや多少はあるけれども、極めて希薄なのでとっつきにくい。とっつきにくいうえにわかりやすく書かれていないので、気を抜くと何が書かれているのかわからなくなってしまう。この文章の密度と読者の置いてきぼり具合は天城一を彷彿させる。
一方で、前半の話はどちらかといえば非人間的な語りであったのに対して後半はわりと人間的な感情が描かれていて、なんだ、こういう話も書くんじゃないかと妙なところで感心してしまう。
とはいっても自由意志の存在が否定された世界で自由意志を体験するなんていう、いやそれって主人公が自由意志を持っていないのに、どうして自由意志を認識できるのだろうかというか、これを読んでいる僕たちはまがなりにも自由意志があると思っている立場なので、自由意志が無い人間に対してどうやって感情移入すればいいんだろうと思ってしまう話もある。
もう少しわかりやすく書いてくれればいいのにと思うのだが、そういうことにはあまり興味がないのだろうなあ。というわけで読みながら、どうやったらこういう書き方をすることができるんだろうと思ってしまう。
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