映像イメージ的に『ダークシティ』を彷彿させた「折りたたみ北京」を書いた郝景芳の短編集。
原著から何偏かだけを訳したものなので日本版オリジナル短編集というわけなので、できれば未訳の短編も翻訳してもらいたいところなんだけれども、それはまあ気長に待つこととしよう。
人口増加を解決する手段として、北京という都市そのものを三つの立体構造にして時間帯に応じてそのどれかが都市としての機能を有し、残りの二つはその間地面の下に折りたたまれる。ただし、富裕層は二十四時間、中間層と下層は二十四時間を昼と夜に分けてと平等ではない。
しかし、そんな圧倒的なイメージの中で、普遍的な社会問題を刷り込ませていて、SF作家としての郝景芳はどっちのほうが主体なのか、あるいはその両方を組み合わせた作風なのかと思いながらこの短編集を読んだ。
「弦の調べ」と「繁華を慕って」は互いに対になる話で、宇宙エレベータを共振させて月を破壊するという、これまた壮大な話だ。宇宙からやってきた鋼鉄人によって支配された未来。しかし支配されたといっても虐げられているわけではなく反抗する勢力に対しては情け容赦なく攻撃するけれども、そうでない場合はとくになにかを強いるようなことなどせず、芸術に関してなどは保護するなんてこともしている。そんな世界を夫の視点と妻の視点と二つの物語で描くというのはなかなか僕好みの話でとくに妻の視点の話が切ない。
「山奥の療養院」は「繁華を慕って」における妻の抱える悩みに通じる問題が描かれている。これは中国だけではなくどこの世界でも共通している問題で、だからわりとわかりやすいと同時に、中国でも解決することが難しい問題なのだという部分に暗雲たるものを感じてしまう。
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